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魔王の娘  作者: 秋草
第1章 未来拒絶のクアドログラム
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魔王の娘のある記憶

 父のことを思い出す。


 全ての魔獣を統べる王。一国の主であり、十二の子を持つ親でもあった。母はシリウスが産まれた直後に死んでしまっており、周囲からは王女の生まれ変わりだとか、意志を継ぐモノだとか言われたこともあった。


 父とは、特別仲が良かったわけでもなかったと、当時はそう思っていた。

 基本的に父は魔王としての業務がある。魔獣の従者から毎日渡される書状に目を通したり、話が進まない会合に日夜顔を出す。


 そもそもが多忙な存在。ゆっくりと話す時間もありはしない。

 元々厳格で、会話を好まない性格のようだった。


 それでも、シリウスは度々父の元へと訪れては会話を持ち掛けていた。

 父は国の大黒柱。忙しく、相手をしている暇などないはずだった。実際に、話しかけても反応してもらえない時もあった。


 だが、部屋から出ていけとは言われない。邪魔だとも言われない。取るに足らないだけだと言われてしまえばそれまでだが、しかしシリウスはそこにいて良いのだと理解して、仕事をする父を傍らから見ていることが多かった。


『シリウスは母に似ておるな』


 西日が射し込む父の執務室。先ほどまでいた従者の列を全て捌ききった父は、不意に視線をこちらへと向けてそう言った。


『おいで。母の話をしてあげよう』


 その声音は優しく、温もりに満ちていた。珍しいな、とは思ったもののわざわざそれを口に出そうとも思わない。


 シリウスは椅子から立ち上がり、父の大腿にその身を預けた。

 父の手が、その頭を撫でる。ごつごつして固く、けれど暖かい手。背中を父の体に寄せて、その存在をより身近に感じ取る。


『そうだな。まずは――』


 それから陽が沈むまでの間、父は母の話をしてくれた。

 それは聞いたことのない話で。

 見たことのない魔王の姿。

 シリウスは永劫、忘れることはない。頭に掛かる手の重さ、背中に感じる体温、耳に馴染む声。


 ――嬉しそうに笑う、父の顔を。


 ゆっくりと移ろう時の中、暖かさに包まれたシリウスは思う。

 こんな時間が、また来ればいいな、と。

 ほんの小さな願い。何気なく祈ったそれ。

 きっとこれから生きていれば、また同じ機会は訪れるだろうと、漠然と思っていた。


 そんなシリウスの願いが立ち消えたのは、その夜のこと。


『親父! 勇者の進軍だ!』

『分かっておる。――シリウス』


 外は夜とは思えないほど明るい。城内もいつもよりも騒がしい。兄姉たちが順番に部屋から出ていき、残った父はシリウスの頭を撫でて告げる。


『ここから、一歩も出てはいけない。姿を見せてもいけない。安心しろ、また戻ってくる』


 父は、いや魔王はそう言い残してシリウスを地下聖堂に閉じ込めた。強固な結界が張られていて、僅かに石畳を浮かせて外の様子を伺うことしかできない。

 後は、思い出したくもない惨状が待っていただけだ。


 いや、記憶を掘り起こす必要もないと言った方が正しいだろう。

 幾度となく夢に見た。忘れたくても忘れられるはずもない。

 日常を踏み躙った、勇者たちの顔や声。

 最後まで抗った父の背中。


 きっとその日からだった。


 自分が笑わなくなったのは――

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