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【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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シジマのトザ、出迎えるは――

 夕陽が沈みかけている。水平線の向こうに落ちていく夕焼けを眩しそうに見ながら、シリウスは渡る船からその身を下ろした。

 ヒゼンから東へ向かい、港へと着いたシリウスたちは、そこから船でシジマを目指していた。


「追いつけそうか?」


 シジマの港へと着いたシリウスは、隣を歩くスズに問いかける。


「そうですね。こっちはシジマのトザっつうところで。そこから京へと上がるためには、馬車を借りねえといけません。ですが――」


 スズが足を動かしながら、周囲を見渡し何かを探る。もう周囲は夕闇に溶けていて、見えている範囲では人の姿はない。


「こんな時間ですからね。快く馬を貸してくれる人はいねえかもしれません」

「ふむ。そればかりは仕方がないな。大人しく徒歩で向かうか……、あるいは――」


 どうにかして馬を借りるか。そのための方法を考えようとしたところで、近くの家から男が出てきた。


「お前さんたち、こんな時間に何用だ?」

「騒がしくして申し訳ございません。あっしらは旅の者でして。キュウコクから京へと、向かうその道中なんです」

「はあ、京までとは随分と遠い旅だ。けどももう陽も沈んじまうし、この村で一泊していけばいいんじゃないか? 知り合いの宿なら、紹介できるからさ」


 男の提案にスズがシリウスへと視線を向ける。意志を問うようなその瞳に、頷き返すと彼女もまた首を小さく縦に振り、男へと向き直った。


「お気持ちはありがてえんですが、先を急ぐ旅でして。夜の間にでも距離を稼いでおきてえんです」

「そうかい。そいつは大変だなあ。まあそんならとっとと、ここを離れた方がいい。最近夜は物騒だからなあ」

「物騒、ですか? 何かあったんで?」

「辻斬りが出たのさ。この村じゃなくて、隣の町でだけどな。どっちにしろおっかねえ。旅をするなら気をつけなよ」


 言葉の割には怖がっている様子はなさそうだ。男はそのまま背を向けると、家へと戻っていった。


「スズよ。辻斬りとはなんだ?」


 静かな夕暮れ。涼やかな声が風に乗る。スズは白髪を揺らしながら笠をずらしてこちらを見やる。


「町を出歩く通行人を、無差別に斬りつけるヤツのことです。クザクラ将軍が治めるようになってからはムサシではとんと見かけなくなったんですが、この辺にはいるみてえですね。アウラムでは御法度とされてる非行ですよ」


 その声からは僅かな怒りが感じ取れる。あるいは嘆いているようにも映った。


「どの世界にも、ルールを破る者はおるものだな。だが憂いてばかりでは仕方がないだろう。生物とは理屈で動く者ばかりではないことを飲み込んで、その上で世界を理解するしかない」

「そういうものだというのは、割り切ってます。ですが納得はできやしません」

「故に規律がある。取り締まる者がいて、悪を裁く者もいるのだ。そうした社会から逸脱すれば、自身も獣へと落ちてしまう。だが――」


 言葉が静かに場に満ちる。太陽が沈んでいくのと同様に、夜の気配と共に声が空気に溶けていく。


「納得しなくともよいだろう。その想いが人を強く、成長させることもある。……余も理性のままに行動できぬ、未熟者だからな」


 どこか晴れ空を思わせる声の震えに、スズは目を逸らした。

 復讐だとか罪滅ぼしだとかを重視しているシリウスから、これ以上の掛けられる言葉はない。

 言ってしまえば、シリウスもその辻斬りを行っている人間と何も変わらないのだ。勇者殺しが許されているはずもない。頭ではそんなことはわかっているが、死んだ心が到底容赦できないと怒り叫んでいる。

 自分の感情すら律することもできない半端者が、何を言ったところで笑い話にもならないだろう。


「なあなあ、いつまでそんな小難しい話してんだよ! いい加減向かおうぜ!」

「すまぬな。馬が借りられぬなら、歩いて向かう他ない。先を急ぐとしよう」


 イッサの催促にスズもまた首肯して、前方を指差した。


「あっちの方が町へと続く街道みてえです。トザの町まで出れば、馬を借りられるかもしれねえですから、そこまでは歩きましょう」


 すっかり人気のなくなった村から、指し示された街道へと向かい始める。田畑のあぜ道を通り抜け、しばらく歩いて街道へと着く頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 しかし、暗いといっても光がないわけではない。夜空に大きく浮かんだ月明かりが、整備された街道を照らしてくれていた。


「この辺は歩きやすくていいな!」


 まるで自慢するかのように身軽な調子で前へと出るイッサ。それにスズは苦笑しながらその後をついていく。


「各地の街道整備は、今のクザクラ将軍が考案したことです。今はまだ全国各地、というわけにはいきませんが、いずれあの村からこの街道に出るための道も、整備されることでしょう」

「キュウコクもか?」

「当然でしょう。クザクラ将軍は、このアウラムをこの国の民全員を平等に見てます。全員が幸せになってようやくアウラム統一だと、いつも仰ってますから」

「そっか。へへ」


 歩きやすいからか、どんどんと前へと進んでいくイッサ。今夜は月が明るく街道も見通しがいい。大きく蛇行するように拓かれた道を歩いていくと、やがてそのど真ん中に、一人の男が立っているのが見えた。

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