サキガケ=ジセイ③
「お、戻って来たねェ」
水や食料、日用品を買い込んだシャーミアたちは、アセビたちが待つ広場へと戻ってきていた。あいも変わらずドワーフや男たちがせっせと働いており、モノを運んだり指示を出したりと汗水を流している。
陽はすっかり傾いて、町が朱色に沈む。眩い夕焼けを塗り潰すかのように、汽車は黒煙を上げていた。
「目当てのもんは買えたかィ?」
「買えたけど、どこに何のお店があるのかわからなかったから、結構迷ったわよ。本当はもっと早く戻ってくるつもりだったんだけど」
「ガハハハッ、道に迷うのも旅の醍醐味さァ。それに、時間は気にしなくていいぜィ? 寧ろちょうど良かったぐれェさァ」
「そうなの?」
首を傾げるとアセビは顎を黒煙噴き上げる汽車へ向けてしゃくった。
「燃料の投入が終わったのさァ。あとは適宜、道中足していくわけだねィ」
「もう出発するのね」
「バルダルさんの準備が出来次第って感じだねィ。夕方から出発すると、大体朝一番にヤマトに着く予定らしい。寝てる間に着いちまうんだから、すげえなァ」
感心した様子でしみじみと漏らすアセビに、シャーミアも頷いた。これほど大掛かりな乗り物は見たことがない。不安半分、期待半分で堂々と佇む黒い車体を眺めていると、倉庫の扉が開き、そこからバルダルが出てくる。
「おっ、噂をすりゃあ」
「……あれ? ちょっと待って――」
倉庫から出てきたバルダルの後ろから男が一人現れる。その男は見覚えのありすぎる派手な上着を身に纏い、整った顔立ちには似合わない屈強な体格を携えていた。
「ジセイ!? どうしてこんなところにいるのよ!?」
思わず、そう叫んでしまっていた。向こうもこちらに気がついたのか、気まずそうな顔を見せながらも近づいてくる。
「おどれらこそ、なんだってこんなとこに……。ああ、もしかして――」
「ジセイさんの考え通りだ。コイツらが話してた用心棒さ」
バルダルの答えに、ジセイは納得した様子で相槌を打った。向こうはそれで納得しているのかもしれないが、シャーミアたちとしては何が何やらわからない。
「シャーミアちゃんたち、ジセイさんと知り合いだったのかィ?」
「いや、知り合いというか、さっきちょっと町で会ったのよ。まさかまた会うとは思わなかったけど」
「へェ。そりゃあ面白ェ因果だねィ。この人はクレっつゥ街をまとめるサキガケ家。その領主の息子さんでなァ。ほら、モノづくりにゃあ鉄や燃料がいるだろ? クザクラ将軍の紹介で、物資を諸々工面してくれてんのさ」
「そういう繋がりね……」
変な縁もあるものだ、とひとまず腑に落ちるものの、やはり先ほどの印象が強い。警戒するシャーミアたちへ、ジセイはそれら懸念を吹き飛ばすような、曇りのない笑いを描いてみせた。
「そう警戒せんでくれ。わしはあの勝負でちゃんと負けたんじゃ。醜く駄々をこねるようなみっともない真似はせん。じゃけえそこの天女様のことは、今は諦める」
「なんだ? ジセイさんはどういう関係でコイツらと知り合ったんだ?」
「道端で倒れてたわしを、そこの空色の髪をした天女様が治してくれたんじゃ! その優しさ、その清廉さに惚れてしもうてな。恋仲じゃ言うそこのルアトと喧嘩をして、わしが負けた! それだけの関係じゃ」
「へえ、ジセイさんと喧嘩して勝ったのか。そりゃあ大したもんだ」
バルダルが珍しく舌を巻いた様子でそう言った。しかし、アセビはその眉を顰める。
「……なァ、これ聞くのはヤボだけどよォ。リリアちゃんとルアトさんは本当に――」
「ああ、アセビさん。そういえばアセビさんの分のお酒を買ってきたんですよ。良ければどうぞ」
「え? あァ、嬉しいねェ。助かるよ」
ルアトがわざとらしく話を途中で打ち切って、酒瓶を取り出した。ついでに人差し指を立てつつ、目配せで事情を語る。それで通じるのかが甚だ疑問だったが、アセビは声にならない音を出したかと思うと頭を搔いた。
「ああ、ああ。そうだったねィ。二人は恋仲だ、うん。おじさん最近物忘れ激しくてさァ」
「なんじゃ? 噂に名高いアセビさんも、年老いたんじゃな」
「からかわないでほしいなァ」
一連の流れを正しく汲んでいるシャーミアからすれば、どれもこれもが芝居臭くて見ていられなかったが、ジセイ当人は気にした様子もない。その光景にリリアも安堵の息を吐き出した。
そんなのんびりとした空気を切り替えるようにして、バルダルが咳払いをする。
「おい。くっちゃべるのもいいが、そろそろ出発の時間だ。汽車の準備は整ってる。荷物を運んで、ヤマトへと向かうぞ」
「ああ、そうだねィ。ジセイさんも乗るんだったかィ?」
アセビが目を向けると、ジセイはその切れ長な瞳を困らせて、肩を竦める。
「仕方なく、じゃな。親父に報告しねえといけんし、これさえちゃんとすりゃあ晴れてわしも自由じゃ。これでまた、アウラムをぶらつける」
「放蕩息子だって聞いてたが、変わっちまったなァ」
「放っておけ。わしだって、親父に見つからんかったら、こんなことはせん」
言いながら振り返って、ジセイはシャーミアたちへと手を差し出してきた。
「さっきは悪かったの。改めて、わしはサキガケ家の次男、ジセイじゃ」
「……あたしはシャーミアよ。こっちの黒髪がルアトで、こっちの女の子がリリア。思うところがないわけじゃないけど、ひとまず信用することにするわ」
そう言ってシャーミアは、その手を握り返した。
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