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魔王の娘  作者: 秋草
第1章 未来拒絶のクアドログラム
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VSカルキノス第三憲兵隊③

 バチバチ、と。その魔術が消えた後も電気が僅かに音を鳴らし、見れば先ほどまでシャーミアがいた場所は焼け焦げて穴が開いている。


 まともに食らえば致命傷だろう。心の中でこれまで修行をつけてくれたウェゼンに感謝をするものの、しかしだからと言って状況が好転しているわけではない。

 寧ろ魔術師の登場はシャーミアにとって状況の悪化を意味していた。


「またちゃんと躱されたな~。さすが、単騎で憲兵隊を相手取るだけある」

「感心しないでくださいよ。私も上に行きますか?」

「いや、エリスちゃんは階下から援護してくれればいいかな。上は俺がやる」

「ちゃん付けは止めてください。じゃあ、任せますからね」


 開いた穴越しに、カランと話す女性の声。その声にシャーミアは聞き覚えがあった。

 昨夜、粗暴な男たちに杖を取られていた、眼鏡を掛けた女性。

 エリス=ハイロン。カランが呼ぶ名前とも一致する。


(やりにくいわね)


 それは顔見知りだから、という理由だけではない。当然それもあるが、顔は仮面を着けているし、フードを被っているので正体を見破られることはない。

 それよりも厄介なのは魔術師と剣士が揃ってしまったことだ。

 それに、今までの憲兵隊にはあった隙が全く見られない。

 とにかく一か所に留まっていると、先ほどのように魔術を下から打ち込まれてしまう。


 シャーミアはカラン、及び階下にいるエリスから距離を取る。

 その間にも、階下からの魔術の攻撃は止まない。

 先ほど見たような大型で高威力な魔術ではなく、恐らく基礎魔術。雷の玉のようなものを射出してきている。

 それらを躱し、さらに距離を開けようと廊下の角を曲がる――


「――っ!?」


 大剣の煌めきが喉元に迫る。咄嗟に喉から《カゲヌイ》を出して防ぐものの、衝撃全てを殺すことはできずに、遥か後方へと吹き飛ばされてしまった。


「うーん。これも防がれるか。どうやらさっきの回避もまぐれじゃないっぽいね」


 床を転がりながらなんとか体勢を立て直すシャーミアだったが、続く階下から放たれる雷の魔術に反応しきれない。

 直撃は避けるものの、その攻撃は足に貰ってしまう。


 バチン、という音と共に全身に痺れが走る。ダメージを負った箇所を見れば、靴が焼き焦げており、足に痛みと痺れを帯びる。


(……地の利は当然、向こうにあるわよね)


 城内の構造を、相手は完全に理解した動きをしている。下からの魔術攻撃で追い込んで、大剣での一撃を狙う。

 当初は純粋な二対一よりもやりやすいかと思えたが、このままだと削られていずれ敗北するだろう。


(――また……!)


 初めに放たれたような魔力の奔流を感じ取る。

 迷っている暇はない。シャーミアは本能で回避する。


 選択したのは、城内からの脱出。窓を突き破ると同時に、薄紫の輝きが天井へと昇っていくのを彼女の目は捉えた。

 幸い、飛び降りた場所は二階。おまけに落下地点は芝生であり、受け身を取ることで上手く着地できた。


(と――、こっからね)


 そこは中庭のような場所だった。城内からの灯りと、存分に設けられた外灯により、外だろうが室内のように明るいその場所に、カランとエリスが到着する。


「……! あなた、どこかであったような」


 エリスと視線が合い、彼女がそう呟く。仮面をしているし、髪型だって隠れている。見えているモノは仮面から覗く紅い瞳ぐらいなものだろう。

 だから、彼女が襲撃者の正体に気づくことはないはずだが、雰囲気などから察せられるものがあったのかもしれなかった。


「エリスちゃんの知り合いかい?」

「……いえ。気のせいかもしれません」


 彼女は静かに首を横に振った。まさか昨日出会った人が、今目の前の襲撃者だとは思わないだろう。


「なあ仮面の侵入者。大剣相手に、広い場所で戦うなんて自殺行為だと思わないかい? あのまま、城内で戦っていた方が俺ら二人に勝てる見込みはあったと思うけど」


 カランはそうおどけた態度を取るが、シャーミアはそれを意にも介さない。その間にも攻撃を受けた足を動かし、痺れが取れていることを確認する。

 これならばいつもの調子でまだ動けるだろう。


 警戒心は解かない。

 目の前に立つ二人を前に、彼女は深呼吸を一つ。

 そうして、対象を見据えた。


「――――っ」


 一気に駆けて距離を詰める。カランが構え、エリスは既に杖を構えて魔術行使の段階に入っていた。


光輝微睡む(ケラヴィノス)白日の明滅(=ターミガン)!」


 直線状に魔力の流れを感じ、真横に回避。

 直後、先ほどと同様の雷撃が走った。

 それを読んでいたのかカランが上空に跳び、大剣をシャーミア目掛けて振り下ろす。ギリギリでそれを避けると同時に、《カゲヌイ》を取り出した。

 そしてそのまま、黒い短剣をカランの影に突き刺す。


「何を――」


 彼の表情が当惑を見せた。体が自由に動かないことに気がついたのだろう。


 ――このレベルの相手には、殺す気でいかなければならない。


 そう結論付けたシャーミアはもう一つの短剣で、彼の首を狙う。


「カラン隊長!?」

「――影だ!」


 カランはそう叫ぶものの、今から魔術による攻撃は間に合わないだろう。精々が雷の玉を作り出せるぐらいの猶予しかない。

 それを発射する頃には、彼の首に致命傷は与えられる。


(こっちの方が早い――!)


 シャーミアの動きは鋭く、確実にカランの喉元に刃を届かせる。


闇拭う(ルミナ=)希望の恩恵(グロウクス)!」


 エリスの声が中庭に轟いた。同時に、強い光が背後から瞬く。

 それは、彼女の頭上を中心にしてありとあらゆる闇を照らした。

 それだけの魔術。攻撃性はない。


 だが光は平等に降り注ぎ、拭う。

 夜の暗黒も、カランの影も。


「――っ!?」


 《カゲヌイ》による拘束から抜け出したカランが大剣で防御に入り、硬質な金属音が響いた。彼は力任せに大剣を振るい、シャーミアの体ごと弾く。

 空中に放り出されるものの、難なく着地を決めて改めて短剣を構えた。


「助かったよ、エリスちゃん」

「ちゃん付けは止めてくださいって……。まあ、もういいです。――それにしても、厄介な短剣ですね。気を付けてください」


 シャーミアを挟んで、そう会話を投げ合う二人に思考を巡らせる。

 奇襲が失敗した。今の攻撃を防がれてしまったのは、相当な痛手だった。もう一度決めさせてくれるほど、甘い相手ではないだろう。


 加えて位置取りが最悪だ。正面には剣士。そして真後ろには魔術師。偶然、そうなったわけではないだろう。これも計算して、相手は動いているはずだ。


(……ここからが本当の勝負ってわけね)


 まだ策がないわけではない。時間を稼がなくてはならないが、それは当初の目的でもある。

 手練れ二人を止めている分、シリウスが目標を達成できる時間が早まるはずだ。


『お主はお主の役目に注力しろ。シャーミアならば、できるからな』


 彼女の言葉を胸に刻む。

 信じてくれた彼女の期待に応えたい。その言葉に、見合う結果を残したい。


 ――こんなところで、負けるわけにはいかない。


 力強い想いが全身に巡り、シャーミアはその身を再び跳躍させる。

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