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【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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京へと向かう旅支度②

 その後、シャーミアを慕う男たちにはバルダルの手伝いをするよう伝え、シャーミアたちは一度その場を離れることにした。

 どうやら、例の汽車の整備があるらしい。バルダル以外のドワーフたちが広場に残って、やる気に満ちた空気と共に騒いでいた。


「……それで、バルダルさんはわかるけど、どうしてアンタまでいるのよ?」


 今シャーミアたちがいるのは、バルダルたちが使っている倉庫の中。その一角に備え付けられた休憩スペースのような場所に、一同座っている。

 そんなシャーミアの視線を受けたのは、当然のように対面に座っている一人の男。先ほど、真っ先にシャーミアが打ちのめした男だ。


「アンタなんて水臭いですぜ! 俺にはクマロウって名前があるんで! ぜひそう呼んでくださると!」


 ガタイの良い男がずいずいと遠慮もわき目も振らずにそう語る。すっかり敵意なんてものは消えているが、対面すると大柄な体からはやはり圧を感じた。


「はいはい、クマロウね。それで、そのクマロウはなんであたしたちと一緒にここにいるのよ。外で汽車の整備手伝えばいいじゃない」

「それについては、オレが言った。この場に同席してもらうようにな」


 相変わらず、不機嫌そうな顔をしたバルダルが声を上げる。彼は一度、シャーミアへと視線を向けたかと思うと、すぐに全体へと戻して、嘆息を吐いた。


「正直、ここまでの結果は予想外でな。どっかの誰かさんが大暴れしたせいで、今状況はよくわかんねえことになってる。だからその整理のために来てもらったってわけだ」

「誰がどっかの誰かさんよ」


 そう噛みつくものの、彼は一瞥しただけでそれを流して言葉を続けた。


「別にオレたちはどうだっていいんだ。なんせ結果が全てだからな。仕事が問題なく進めるようになりゃあそれでいいわけだ。だがな、聞いとかねえといけねえことがある。クマロウっつったか。オマエら、誰に雇われてたんだ?」


 静かに、しかし地面の底から響くような力強さも感じられるその問いに、クマロウは盛大に息を漏らした。

 呆れ、否、それは観念したかのような、諦めが含まれたものだった。


「まあ、そうなりまさあなあ。言っとくが、俺たちもこの妨害工作を誰が企ててるのか知らねえんですよ。いっつも金貰ってたのも、下っ端みてえなヤツからでしたからねえ」


 そう言って頭を搔くクマロウ。バルダルもそれがわかっていたのか、うんざりした様子を見せる。


「ま、だろうな。クザクラ将軍の邪魔をするなんて、大っぴらに言うヤツもいねえか。元を叩かねえと意味がねえ。クザクラ将軍もそれがわかってるから、オマエらみてえなヤツを野放しにしてたのかもな」


 この作業の妨害をしているクマロウたちを捕らえても、また別の人間を向かわせるだけなのだろう。将軍としてもそれは本意ではないということらしかった。


「あの、クマロウさんたちは大丈夫なんですの? 一応、雇われていらっしゃるんですのよね? こうして(わたくし)たちと一緒にいると、あまりよくないのでは……」


 リリアの疑問ももっともだ。クマロウたちは金を払われてバルダルたちの妨害をするように依頼されていたはずだ。それが一転、今ではバルダルたちの手伝いをしている。目に見えた裏切り行為である。さすがに知り合ったばかりとはいえ、心配になってしまうが、反してクマロウは困ったように笑う。


「俺らのことは気にしねえでくだせえ。こんな役目のヤツら、どうせ使い捨てられる運命ですからねえ。雇い主も、死のうが裏切ろうがどうだっていいと思ってますぜ。また、新しい人間を雇えばいいだけなんですから。実際、俺が合ってた下っ端も、俺らの動きにゃ興味もねえようでしたし」

「……とんでもねェ人間もいたもんだねィ。人を人とも思ってねェのかィ」

「へえ。ですんで、俺らのことは気にしないでくだせえ。今の俺らは姐さんの力になりてえって、そう思ってるんで! それだけで満足でさあ!」


 ガハハと、楽しそうに笑うクマロウに、シャーミアは少し戸惑う。慕ってくれるのは嬉しいが、彼らにも彼らの人生がある。ずっとクマロウたちと共にいるわけにもいかない。彼らの手綱を握るのは、気が引けた。

 ともあれ、力になってくれるというのならば、何か役割を与えればいい。

 シャーミアは呆れ気味に、クマロウへと向けて声を発する。


「じゃあ、バルダルさんたちの手伝いをしっかりしなさいよね。これまで邪魔をしてきたんだから、その償いの意味も込めて」

「もちろんでさあ!」

「でも、無理はしないことよ。第一に、自分のことを大事にして。それで倒れられても、まあその、気まずいから」

「わかってますって!」


 ドン、と。大きく胸を叩くクマロウ。本当に理解しているのだろうか。俄かに不安を抱くものの、その真意は確かめようがない。


 「正直、まだオマエらのことを信用したわけじゃねえからな? はいそうですかって納得できねえヤツもチラホラいる。そこんところ理解した上で、オレらの言うこと聞けるのか?」

「他ならねえ姐さんの頼み! 俺らは心を入れ替えて、きっちり働きますぜ!」

「はん、どうだか。まあ、結果で出してもらえりゃあそれでいい。もちろん、結果が出なけりゃあ報酬も低くさせてもらうからな」


 口と態度は悪いけど、やることはちゃんとやる人だな、と。ぼんやりとバルダルを眺めていると、おもむろに彼が立ち上がった。


「どうかしたんですかィ?」

「いや。話がまとまっただろ? んでもってこのガキどもはちゃんと結果を示した。今度はオレらがそれに答える番だ」


 バルダルの顔つきは相変わらず不愛想で、ぶっきらぼう。不機嫌に服を着せて歩かせているとすら思える。

 そんな彼の口角が少しだけ上がったように見えた。


「着いてきな。オレらが仕上げた最高傑作。初めの試運転は、オマエらも乗せてやるよ」

お読みいただきありがとうございました!


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