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【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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白銀流れて事解す

「連れてってやるって。アンタね……」


 先ほどまで信用できないだの任せられないだの言っていたくせに、どの口が言うのだろうか。正直文句の一つでも言ってやりたいところだったが、シャーミアは喉から出かかった不満を飲み込んだ。アセビが口を挟んできたのも、理由としては大きかったが。


「まあまあ、シャーミアちゃん。色々と言いてェことがあるかもしんねェけどさァ、ひとまずは抑えちゃくれねェかィ? バルダルさんが言った通り、ここで有用だって示せりゃあ、汽車でゴザンの先のヤマトまで連れてってくれるんだ。馬飛ばしても休まず二日ぐれェかかる道中を、たった一日かからずに行けるってのはァ、魅力的じゃねェかィ?」

「はあ……、そういうことなら早めに言っといてよね」


 言われていたところで何も変わらないような気もするが、何も説明されていないよりはマシだ。呆れながらシャーミアは、バルダルの隣に立ち視線を下げる。


「アンタのさっきまでの態度、間違ってたって認めさせてやるわよ」

「……オレら職人にとっては過程はいらねえ。結果だけが全てなんだよ。それに、口を動かすよりも先に手を動かせとガキの頃から教わってる」

「はいはい。結果でわからせればいいんでしょ」


 しぶしぶ、言いながら一歩前へと歩み出る。正面にはシャーミアよりも体格の大きい男たちが構えており、薄ら笑いを浮かべていた。

 あからさまに見下しているような目つきだ。態度もまたそれに似合う生意気で油断した、呆れ果てるほどの稚拙さを内包している。


「なんだ? あんたが新しくバルダルさんに雇われた用心棒か? その変な恰好……、アウラムの人間以外を雇ったって感じか。ギャハハハっ、女でガキじゃねえか!」


 景気よく笑う男につられて周りの男たちも口を大きく開く。

 男たちの腰には刀が納められている。無警戒にも手にすらかけていないが、構えられると厄介だ。

 しかしそれ以外には特筆して、武器らしい武器はない。防具もなく、ただ綿でできた衣服を纏っているだけ。これならば、前回ギョウヨウの城であったそもそも相手を無力化できない、という問題はないだろう。

 懸念があるとすれば、人数差だろうか。見える範囲で十五人は見えている。


「なんだ? ガキはビビッて声も出せねえか!」


 そんな状況だからだろうか、男は威張り散らすように胸を張って、シャーミアを見下していた。

 視線に対してシャーミアも睨み返していた。だがそれも一瞬。構える素振りも攻撃行動への挙動も見せず、瞬時にその身を深く沈ませて、そして――


「いい加減――」

「は――?」


 瞬く間に詰めたその距離から、渾身の打撃を男の顎へと振りぬいた。


「が――っ!?」

「舐められっぱなしなのは、ムカつくのよ!」


 ぐるん、と。白目を剥いた男はその勢いのまま地面に崩れる。これで一番偉そうな存在が無力化されたわけだが、これで他の男たちが委縮してくれれば話は早い。


「てめえ!」


 そんなシャーミアの期待も、即座に潰えた。

 当然、周囲の男たちが黙って見過ごすわけもない。

 手近にいた二人が即座に抜刀。そのままシャーミアへと刀を振り降ろしていた。

 ちらりと他の男たちの動きを見ると、刀は抜いているがまだこちらへは攻撃姿勢に入っていない。それを確認したシャーミアは足をばねのように跳ねさせて、まずは刀の振り降ろしを回避。

 そしてそのまま他の男たちの元へと、身を低くし飛び込んでいく。


「このっ、ちょこまかとっ」


 男の一人が刀を身構え迎え撃つ。が、シャーミアの動きはそれよりも早く、その男の足元にまで到達。

 一瞬の間に、手にした短剣で足の腱を切り裂いた。


「痛っ――!?」


 鮮血が飛び、男が地面に力なく沈む中、さらにシャーミアは短剣を振るう。

 いずれも全て足の腱。

 犬がその場を駆け回るように。風が間を縫うように。

 シャーミアが駆けたその刹那の後、男たちの呻き声で山が出来上がっていた。


「別にアンタたちに恨みはないけど――」


 鉄の汽車を背に、申し訳なさそうなシャーミアの声が落ちる。


「アンタたちを倒さないと、認めて貰えないみたいなの。悪いわね」

お読みいただきありがとうございました!


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