火塞領オウリゴのバルダル
「俺とバルダルさんは昔っからの知り合いでねィ。っつっても、バルダルさんが来たのが七年前だから、そん時から顔見知りってだけの話だが」
歩きながらアセビが酒を呑んだ。連れ立って歩を進めるバルダルは、不遜な態度を崩さないまま、鼻を鳴らす。
「当時はアセビさんにゃあ世話になったもんだ。気の良い人間だし、こっちが気を遣うこともねえ。色々と便宜を図ってくれたからよ、感謝はしてる。だが――」
バルダルは苦虫を嚙み潰したような表情で、立てた親指をシャーミアたちへと向ける。
「こんなガキどもに、オレらの護衛はやっぱり任せられん。これはアウラムとオウリゴとの信頼にも繋がる重要な仕事だ。オレらだって、この依頼は何が何でも成し遂げてえって思ってる。国同士の関係が悪くなることだって避けてえ。コイツらに、そこまでの配慮ができるとは到底思えねえな」
「バルダルさんは人を見かけで判断するのね」
「なんだと?」
「なによ、事実でしょ?」
互いに睨み合うシャーミアとバルダル。それをルアトは呆れたように眺め、リリアは慌てた様子でそれぞれを見やる。
「シャーミア様っ、ケンカしてはダメですわよ」
「……わかってるわよ」
もちろん口論をしたくて突っかかっているわけではない。ただこちらの実力も知らない癖に、子どもだからと舐めた態度を取られていることが気に食わなかった。
「……言い返すなら、あたしたちの実力を知ってもらってから、ってことよね」
「そういうこったなァ!」
アセビの声がワントーン上がった気がする。酒を呑んでテンションが上がったのか、上機嫌に拍車がかかっているように窺えた。元から酒は呑んでいたが、ともあれ声帯のタガが外れたのか、声が大きい。
「シャーミアちゃんもわかってるじゃねェか。そのために、今から俺たちはある場所に向かってるんだよォ」
「はいはい。っていうか声デカいわよ。ほら、すれ違う人の視線が、気の毒な人を見る目になってるわ」
「人の目を気にしてたら酒なんて呑めないぜィ。コソコソ吞んで何が美味ェんだって話さ。大っぴらに呑むから気持ちいいんだぜィ?」
「知らないわよ。それで、どこまで歩くの? いい加減、この酔っ払いと一緒に歩くのもあたしたちの方が耐えられないんだけど」
賑わう町の中心部からは離れたものの、それでも店や家屋が軒を連ねて並ぶ中、多くの人々の往来がある。衆目に晒されながらも、ご機嫌なアセビは確かな足取りを維持したまま、顎をくいと前方にしゃくった。
「心配しなくたって、もう少しで着くよォ。あの広場が目的地で、バルダルさんを困らせてるヤツらがいる場所さァ」
見れば通りの先には広い空間が設けられているようだ。言われるがまま、シャーミアたちはアセビについて歩き、そしてその広場へと辿り着いた。
そして、そこに置かれていたモノを見て、全員が驚愕の声を発する。
「な、何よこれ――!?」
それは、黒い鉄の塊のようだった。馬車が牽く車体を幾つも連結させたような、車輪のついた箱が並んでおり、窓ガラスと車体が陽光に反射して輝く。
そして何よりもその先頭。並ぶ箱を牽く馬の位置には、これもまた鉄でできた巨大な円柱。それに様々な装飾が施されており、先端上部には煙突のようなものまで備え付けられていた。
一同が唖然とする最中、アセビがカラカラと嬉しそうに笑う。
「こりゃあ汽車って代物でねィ。クザクラ将軍と加工師ヤガナ=センスキが考えを出し合ったもんでなァ。それを実現させたのがこのバルダルさんたち、オウリゴの人たちなのさァ」
「久々に腕が鳴った仕事でな。オレらとしても興奮しちまったよ。まだまだ完成とはいかねえが、最近ようやく形になったのさ。これができるまで、大体五年か。線路も敷き終わって、やっと試走できるって段階だったんだがなあ」
胸を張っていたバルダルが、突如顔を顰めてその汽車へと歩み寄っていく。シャーミアたちも、その巨大な台車と牽引する汽車の迫力に圧倒されながらも後ろをついていくと、ふとバルダルが足を止めた。
目の前にいるのは汽車と、それから十数人の男たちだ。彼らは着崩した衣服で佇んだまま、目の前にいるバルダルを下卑た笑みで出迎えていた。
「よお、バルダルさん。今日も汽車の様子を見に来たのか?」
「当然だろうが。オマエらがオレらの造ったもんに傷つけてねえか、心配で夜も眠れやしねえ」
ニヤニヤと笑う男たちに、バルダルは小柄ながらも負けない気迫で対峙している。
一方で男たちも人数から来る余裕があるのか、笑いを崩さないまま肩を竦めた。
「安心してくれよ。この汽車は俺たちが責任を持って見張ってやってるからよ」
「それで、オレらの仕事の邪魔をしてるんだから、話しになんねえよな。とっとと、仕事場から出て行ってくんねえか?」
「そういうわけにはいかねえなあ。俺たちは大金貰ってこの場所に居座らせてもらってんだ。邪魔だってんなら、力づくでどうにかすればいいだろ? まあ、どうせできねえだろうがなあ!」
勝ち誇った様子で、男たちが不快な笑いを巻き起こした。
なるほど、と。シャーミアたちは状況をある程度理解する。バルダルたちの目的を邪魔する役割で雇われたのが、恐らくこの目の前にいる男たちなのだろう。
「親方ぁ。そろそろ我慢なりませんぜ!」
「そうだそうだ!」
気がつけば、バルダルと似た小さい髭面の男たちが、汽車の周りに集まっている。人数で言えば男たちよりも多いのだが、男たちの表情からいけ好かない笑みは消えない。
「大丈夫だ。オレもそろそろ我慢の限界だからな」
バルダルが握り拳を震わせながら、しかしそれを誰かに振るう真似はしない。力強い瞳を湛えながら振り返った彼と、シャーミアたちと視線が重なった。
「ダメで元々。もう縋れるもんもねえんだ。全くもって不本意だが、オマエらに仕事を依頼してえ。この連中の鼻っ柱をへし折ってやれ。そしたらアセビさんの頼み通り、この汽車でゴザンの先、ヤマトまで連れてってやる」
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