『殻の勇者』アルタルフ③
勇者とは、単純に能力に秀でていれば選ばれるモノ、ではない。家柄や実績、素養や人間性も加味して選ばれる。
その上で世界から才能あるモノを選ぶための選抜試験を行うことで、勇者が初めて誕生するのだ。
アルタルフも、その勇者選抜試験を経て勇者となったモノだった。
元々はカルキノス国の小さな村の出身で、魔力の量には自信があるだけだった。自らの特異星についても理解しておらず、選抜試験で初めて気付くことができた。
勇者となってからの活躍は目覚ましく、【神魔拒絶の障壁】の能力を活用して他の勇者のサポートに徹することで、勇者側の被害をゼロに抑えていた。
だから、というわけではないが、アルタルフは自身のおかげで勇者軍が活躍していると自負していた。
実際に成果はあった。アルタルフが作り出す結界は相手の攻撃を全て防ぎ、当時できうる全ての対策はアルタルフの前では無駄に終わる。
この世全ての技術で、およそアルタルフを殺せるモノはいない。絶対無敵の能力だった。
それ故に魔王も討伐できたし、讃えられるべき人間であると自賛している。
国に戻った後、国民全員に対して税収を上げたりといった無茶な要求をしたのも、それが当然だと思ったからだ。
それだけの横暴をしても許される。
自分が勇者であり、誰も自分を傷つけられるはずもないのだから。
「おい、そこの憲兵隊。今日もこれから誰も近づけさせるなよ。女どもと大事なディナーの予定があるんでな」
「は、いやしかしアルタルフ様をお守りしなければ……」
「俺様を誰だと思ってんだ? 万に一つでも、俺様のことを傷つけられるやつがいるなら連れてきてほしいもんだな」
アルタルフは傍に控える憲兵隊に向けて唾を飛ばし、椅子に深く腰掛け直す。
彼が今いる部屋は城の最上部。その部屋の中央に設けられた長い机に、数多くの椅子。内装はアルタルフを描いた自画像が所々に飾られている。
そして、ただ一つある扉の正面に置かれた豪奢な椅子に、彼は座っていた。
「正直、見張りの兵士もいらねえんだよ。俺様さえいりゃあいいからな。だから魔獣討伐部隊の招集は俺様にとって都合が良かった。礼金もたっぷり貰えるしよ」
「はあ……」
「分かったらとっとと失せろ。今日は誰もここに見張りに来なくていいからな」
そう言い放ち、憲兵隊を部屋から追い出した。静かになった部屋で、アルタルフは手首に飾られた黄金のブレスレットを見やる。
それは勇者であることを示す装飾品。それのみで勇者だと断定するわけではないが、判断材料にはなる大切なものだ。
これがある限りは勇者でいられる。アルタルフは確かめるようにそれを握り、窓から外を覗く。
陽が沈もうとしている。空は濃紺に染まりながら、星々が瞬き始めようとしていた。
今日も昨日までと変わらない夜が訪れる。明日も、そして遠い未来までも、ずっとこの日常が続くことだろう。
それは当たり前のことで、疑う必要もない事実。
魔王という世界の脅威を祓った存在だからこそ、そのいつも通りを求める資格があると言えた。
だから、アルタルフは日々を優雅に過ごす。毎日異なる女性を侍らせ、上手い料理に舌鼓を打つ。
公務も責任も何もない、その自由な暮らしに慣れ切った彼は、今日もやがて来るであろう女性たちに胸を高鳴らせるのだった。
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