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魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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VSカリョウ=ケイジ

カリョウと対峙するシャーミア……!!

「大事なモノ、だあ?」


 異物を見るカリョウの眼が、目の前にいる闖入者を見据える。倒れた彼の仲間たちが地に倒れ、呻き声を漏らす中、重い空気が漂っていた。


「そんなもん、金と名誉以外ねえ! 名前なんざ、ただの記号だろうがよ! くだらねえもん守ってたって、腹は膨れねえし命も無駄にするだけだ! そんなんじゃ、この乱世は生き残れねえ!」


 理解ができないとでも言うように、荒い呼吸と自らの考えを押し付ける。否定、牽制、相対する敵との距離。警戒しながらも探りを入れて、その少女が何者なのかを推し量ろうとしているようだった。

 一方で――


「お金と名誉で、返ってこないものもあるのよ。アンタみたいなのに、言っても無駄かもだけど」


 涼しい顔つきのまま、シャーミアは構えを崩さない。湿った言葉にカリョウは眉を顰めたが、すぐに手に持つ槍を構え直した。

 そしてそのまま、臨戦態勢へと移行する。


「てめえの主義主張なんざ知ったこっちゃねえけどよ。ここまで喧嘩売られて、黙っちゃいられねえ。――ハタン=ギョウヨウに仕える四本の槍が一本、カリョウ=ケイジ。推して参るぜ!」


 膝を思い切り曲げてしゃがみ込んだ、その直後に土煙が上がる。

 カリョウの姿が消えると同時に、シャーミアへと風が吹いた。

 銀色の髪が、靡く。


「――っ」


 ぎぃん、と。

 再び鉄を打ち鳴らす音が、町に響いた。目の前に現れたカリョウが放つ一撃を、シャーミアが短剣で防ぐ。


「この速さについてこれるなんてな」

「……」

「なんだ? つまんなさそうな顔してんな。安心しろよ。もっと速さを上げられるからよ!」


 またも、カリョウがその身を消した。

 足音と風を切る音。シャーミアの周囲が騒がしくどよめき始め、白い刃による輝きが煌めき舞い踊る。

 常人では、捉えきれないほどの速度。眼でも追えず、視界に収めることすら叶わない。

 その中で、シャーミアはただ静かに、佇んでいた。


「ははっ、どこから攻撃が来るかわからなくて諦めたか!? 命乞いでもして見せろよ!? そうしたらもしかしたら、見逃してやらんこともねえかもなあ!?」


 明らかに機嫌を取り戻した様子でカリョウが声を放つ。時には左から、次に右から。様々な角度から届く彼の声に、しかしシャーミアはふっと息を吐いた。


「アンタの全力ってこの程度なの? これじゃあ、ギョウヨウってヤツの実力も知れるわね」

「ああ!? 聞き捨てならねえな!? この俺の速度は、キュウコクで随一だ! 誰も俺のことを視認できずに、知らねえうちにこの世を去る。俺の速さに勝てるヤツなんざ、いねえんだ!」


 声に怒気が孕む。起こす風は力強く、さらに勢いを増したようにすら感じられる。


「決めた。てめえはただじゃ殺さねえ。てめえがいくら泣いて許しを請おうが、死んだ方がマシだって思えるほどに、痛めつけて、苦しませてやる」

「はいはい。だから、早くやればいいじゃない」

「――っ!!」


 呆れた調子の声音に、ついに不可視の一閃が放たれた。

 シャーミアの背後。背中を狙った槍が、一瞬で場を鮮血で濡らされる。

 ……はずだった。


「な――っ!?」


 カリョウが振るった斬り払いは、しかしシャーミアの短剣によって防がれていた。金属音が鼓膜を揺らした事実が、夢幻などではないことを物語っている。


「な、なんでだ!? こんなこと、あっていいはずがねえ! 偶然、たまたま防いだだけだ!」


 すぐに、シャーミアの視線から逃れるようにカリョウは姿を消した。

 そしてもう一度、槍による一撃を見舞う。

 だが、結果は変わらない。

 幾度となく、速さの乗った攻撃を繰り出しても、シャーミアの肌一つ斬ることができないでいた。


「なんでだよ!? 俺の速さについてこれるやつなんて、いちゃいけねえんだ! なのに――っ」


 鉄を叩く硬質音が止まない。シャーミアは最小の動きで、カリョウの攻撃をいなし続け、やがて――


「アンタの速さに負けてるようじゃ――」


 降り注ぐ攻撃よりも先に、短剣を彼の眼前へ突き付けていた。


「アイツの背中に追いつけないのよ」

「……っ、ちぃっ――っ!!」


 明らかに動揺した調子で、難色を示したカリョウが一度後退をする。そして、足を滑らせるように動かし姿勢を低く、槍を構えた。


「俺は、四本槍のカリョウ=ケイジだ。俺の敗北は即ち、ギョウヨウ様の敗北に等しいんだよ。こんなよそ者に、負けるわけがねえ」


 瞳に殺気が宿る。ギラついた眼光が、両手に短剣を持つ少女へ狙いを澄ます。

 静寂が場に満ちた。活気のない町は、死んだように静まり返り、ただ風が吹く音だけが異様にうるさかった。


「……行くぞ――っ」


 カリョウの足元に土煙が舞った。

 瞬間、彼の姿は消え、ただ風と同化する。

 一本の槍、あるいは、弾き出された一本の矢のように。

 先ほどまで以上の速さで、風の音を纏う。その矢がシャーミアの体を射貫くべく風を切る。

 それは、ほんの一瞬の出来事で。瞬きをする間もなく、カリョウが持つ槍は少女をいとも容易く引き裂いたことだろう。

 それほどまでに、目にも留まらない早業だと、そう言えた。


「――」


 シャーミアは短剣を手に、その腕を素早く振るった。彼の動きに対して、それしかできず、そして――

 それだけで十分だった。


「…………――――っっ!?!?」


 シャーミアが最小の動きで躱し、それから勢いよく腕を振るった。ただそれだけで、カリョウの体が真上に吹き飛んでいた。


「が……、あ――?」


 カリョウの肺から空気が漏れ出て、音にならない悲鳴となって零れる。打ち上げられた彼の体は、しばらくの空中浮遊を楽しんだ後。

 音を立てて、地面へと落下していった。


「……これならトゥワルフさんの方がずっと、速かったわね」


 シャーミアのその声は、気を失ったカリョウには既に聞こえていないようだった。

お読みいただきありがとうございました!


カリョウ=ケイジ、撃破――!!


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


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