VSカリョウ=ケイジ
カリョウと対峙するシャーミア……!!
「大事なモノ、だあ?」
異物を見るカリョウの眼が、目の前にいる闖入者を見据える。倒れた彼の仲間たちが地に倒れ、呻き声を漏らす中、重い空気が漂っていた。
「そんなもん、金と名誉以外ねえ! 名前なんざ、ただの記号だろうがよ! くだらねえもん守ってたって、腹は膨れねえし命も無駄にするだけだ! そんなんじゃ、この乱世は生き残れねえ!」
理解ができないとでも言うように、荒い呼吸と自らの考えを押し付ける。否定、牽制、相対する敵との距離。警戒しながらも探りを入れて、その少女が何者なのかを推し量ろうとしているようだった。
一方で――
「お金と名誉で、返ってこないものもあるのよ。アンタみたいなのに、言っても無駄かもだけど」
涼しい顔つきのまま、シャーミアは構えを崩さない。湿った言葉にカリョウは眉を顰めたが、すぐに手に持つ槍を構え直した。
そしてそのまま、臨戦態勢へと移行する。
「てめえの主義主張なんざ知ったこっちゃねえけどよ。ここまで喧嘩売られて、黙っちゃいられねえ。――ハタン=ギョウヨウに仕える四本の槍が一本、カリョウ=ケイジ。推して参るぜ!」
膝を思い切り曲げてしゃがみ込んだ、その直後に土煙が上がる。
カリョウの姿が消えると同時に、シャーミアへと風が吹いた。
銀色の髪が、靡く。
「――っ」
ぎぃん、と。
再び鉄を打ち鳴らす音が、町に響いた。目の前に現れたカリョウが放つ一撃を、シャーミアが短剣で防ぐ。
「この速さについてこれるなんてな」
「……」
「なんだ? つまんなさそうな顔してんな。安心しろよ。もっと速さを上げられるからよ!」
またも、カリョウがその身を消した。
足音と風を切る音。シャーミアの周囲が騒がしくどよめき始め、白い刃による輝きが煌めき舞い踊る。
常人では、捉えきれないほどの速度。眼でも追えず、視界に収めることすら叶わない。
その中で、シャーミアはただ静かに、佇んでいた。
「ははっ、どこから攻撃が来るかわからなくて諦めたか!? 命乞いでもして見せろよ!? そうしたらもしかしたら、見逃してやらんこともねえかもなあ!?」
明らかに機嫌を取り戻した様子でカリョウが声を放つ。時には左から、次に右から。様々な角度から届く彼の声に、しかしシャーミアはふっと息を吐いた。
「アンタの全力ってこの程度なの? これじゃあ、ギョウヨウってヤツの実力も知れるわね」
「ああ!? 聞き捨てならねえな!? この俺の速度は、キュウコクで随一だ! 誰も俺のことを視認できずに、知らねえうちにこの世を去る。俺の速さに勝てるヤツなんざ、いねえんだ!」
声に怒気が孕む。起こす風は力強く、さらに勢いを増したようにすら感じられる。
「決めた。てめえはただじゃ殺さねえ。てめえがいくら泣いて許しを請おうが、死んだ方がマシだって思えるほどに、痛めつけて、苦しませてやる」
「はいはい。だから、早くやればいいじゃない」
「――っ!!」
呆れた調子の声音に、ついに不可視の一閃が放たれた。
シャーミアの背後。背中を狙った槍が、一瞬で場を鮮血で濡らされる。
……はずだった。
「な――っ!?」
カリョウが振るった斬り払いは、しかしシャーミアの短剣によって防がれていた。金属音が鼓膜を揺らした事実が、夢幻などではないことを物語っている。
「な、なんでだ!? こんなこと、あっていいはずがねえ! 偶然、たまたま防いだだけだ!」
すぐに、シャーミアの視線から逃れるようにカリョウは姿を消した。
そしてもう一度、槍による一撃を見舞う。
だが、結果は変わらない。
幾度となく、速さの乗った攻撃を繰り出しても、シャーミアの肌一つ斬ることができないでいた。
「なんでだよ!? 俺の速さについてこれるやつなんて、いちゃいけねえんだ! なのに――っ」
鉄を叩く硬質音が止まない。シャーミアは最小の動きで、カリョウの攻撃をいなし続け、やがて――
「アンタの速さに負けてるようじゃ――」
降り注ぐ攻撃よりも先に、短剣を彼の眼前へ突き付けていた。
「アイツの背中に追いつけないのよ」
「……っ、ちぃっ――っ!!」
明らかに動揺した調子で、難色を示したカリョウが一度後退をする。そして、足を滑らせるように動かし姿勢を低く、槍を構えた。
「俺は、四本槍のカリョウ=ケイジだ。俺の敗北は即ち、ギョウヨウ様の敗北に等しいんだよ。こんなよそ者に、負けるわけがねえ」
瞳に殺気が宿る。ギラついた眼光が、両手に短剣を持つ少女へ狙いを澄ます。
静寂が場に満ちた。活気のない町は、死んだように静まり返り、ただ風が吹く音だけが異様にうるさかった。
「……行くぞ――っ」
カリョウの足元に土煙が舞った。
瞬間、彼の姿は消え、ただ風と同化する。
一本の槍、あるいは、弾き出された一本の矢のように。
先ほどまで以上の速さで、風の音を纏う。その矢がシャーミアの体を射貫くべく風を切る。
それは、ほんの一瞬の出来事で。瞬きをする間もなく、カリョウが持つ槍は少女をいとも容易く引き裂いたことだろう。
それほどまでに、目にも留まらない早業だと、そう言えた。
「――」
シャーミアは短剣を手に、その腕を素早く振るった。彼の動きに対して、それしかできず、そして――
それだけで十分だった。
「…………――――っっ!?!?」
シャーミアが最小の動きで躱し、それから勢いよく腕を振るった。ただそれだけで、カリョウの体が真上に吹き飛んでいた。
「が……、あ――?」
カリョウの肺から空気が漏れ出て、音にならない悲鳴となって零れる。打ち上げられた彼の体は、しばらくの空中浮遊を楽しんだ後。
音を立てて、地面へと落下していった。
「……これならトゥワルフさんの方がずっと、速かったわね」
シャーミアのその声は、気を失ったカリョウには既に聞こえていないようだった。
お読みいただきありがとうございました!
カリョウ=ケイジ、撃破――!!
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!




