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魔王の娘  作者: 秋草
第1章 未来拒絶のクアドログラム
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魔王の娘の目指すその場所に②

「そうよね。あたしじゃ力になれないのは分かってる。分かってる、けど――」


 そんなことは百も承知だ。初めから納得のいく結果を出せるなんて思ってもいない。

 認めてくれなくてもいい。

 拒絶されたって構わない。

 ただチャンスを手放すことを、したくはなかった。


「アンタと一緒の場所にまで落ちないと、あたしはアンタを殺せない。できることには、立ち向かわないといけないのよ」


 弱い自分を認めて立たせ、強気な性格を納得させて落ち着かせる。

 それが今できる、シャーミアなりの覚悟の見せ方だった。


 それに対して、シリウスは瞳を閉じて嘆息を一つ。そうしてやがて、宝石のようなその目を開いた。


「……そうだな。覚悟が足りておらぬのは、余の方だったのかもな」


 そう言った彼女の声はどこか、嬉しそうだった。相変わらず無表情なので真偽は不明だったが。

 続けて、シリウスは立ち上がり窓辺に寄りかかる。


「よいだろう。シャーミアにも少し手伝って貰うとしよう。今から、そのための作戦を話す」


 ようやく。

 待ち望んだその言葉に、ついにシャーミアの胸に溜まっていた澱は消えていく。

 自然と溢れた安堵の表情を確認したシリウスは、勇者殺しの計画について話し始めるのだった。



「まずは『かくの勇者』の能力について話しておこう」


 真っ赤なリンゴをシロップで固めた飴を齧りながら、シリウスは標的について説明を始めていく。


「その前に、その勇者について何かシャーミアが知っておることはあるか?」

「うーん……、正直、アルタルフのことあんまり知らないのよね。魔王を倒して調子に乗ってるってことぐらいかしら」

「そうだな。『かくの勇者』の愚行については余も先ほど聞き及んだ。それに、能力についてもある程度分かった」

「能力? どんなのなの?」


 勇者というからには大層特別な能力が備わっているのだろう。興味半分、面白半分で尋ねてみると、シリウスは少し考える素振りを見せてから果実飴に刺さっている棒の部分を持ちながら、それをクルクルと回してみせる。


「そうだな。口で説明することは容易いが、見せた方がイメージもし易いだろう」


 言うが早いか、彼女は手に持った食べかけの果実飴をシャーミアの前へと差し出した。


「シャーミア。この果実飴をお主の短剣で斬ってみてほしい」

「え、イヤよ。飴で汚れるじゃない。これ、今日修繕に出したばっかりなんだけど」

「問題ない。汚れたら、短剣の修繕費の倍額出そう」

「まあ、そこまで言うならいいけど……」


 言いつつ、シャーミアはその手に短剣を構え、そのままシリウスの持つ果実飴に刃を振るった。


「あれ……?」


 結果として。

 訪れたのは硬質のモノ同士がぶつかり合う時に発せられる甲高い音。リンゴは床に落ちず、短剣が飴で汚れてもいない。

 もう少し詳細な説明を加えるならば、短剣と果実飴とは触れ合わず、果実飴を覆う僅かに揺らぐ空気に止められていた。


「これって……」

「魔術結界。物質の硬質化でもなく、単純な空気の層を作り出しているわけでもない。そこにあるのは、高密度に圧縮された魔力そのものだ」


 シャーミアは、その術をよく知っていた。

 昔、よくウェゼンが使用していたのを覚えている。彼と稽古をしていたが、その時ウェゼンは武器の類を使用せず、その身一つでシャーミアの短剣を受けていた。

 その時の感触が、いま確かに短剣を通して蘇る。


「でも――」


 確かに、リンゴですら刃物を通らなくするその術は脅威だとは思うものの、しかしシャーミアは短剣をしまいながら首を捻った。


「凄い……、んだろうけど。なんかアンタでも使えるってなると急に安っぽく見えるわね」

「使い手が身近にいると感覚が鈍るか。だが目は肥える。その感覚を覚えておくとよいぞ」


 それに、と。シリウスは言葉を続ける。


「『かくの勇者』の能力はそもそもの規模が異なる。彼奴の特異星(ディオプトラ)、【神魔拒絶の障壁(リジェクション)】と呼ばれておるのだが、それが余が生み出す魔術結界と同等のモノとは思えぬしな」

「なにそれ、勘?」

「ああ、経験に基づく感覚のようなものだな。それに、余は一度父が勇者たちと戦っているのを見ておる。その時の情報にはなるが、大きく見当が外れることもないだろう」


 大した自信だと、今一度少女と自分の距離を測り、その遠さを正しく認識する。


「……それでも勝てる見込みがあるってことなのね」

「無論だ。魔術とは戦争の歴史。ある魔術に対する対抗策、所謂対魔術と呼ばれているものも溢れかえっておる。相手も魔術を原理として行使しておる以上、それも有効だろう。無敵の魔術など、存在しないからな」


 そう言い終えるとシリウスは果実飴に歯を立てる。飴が砕ける音が部屋に響き渡った。

 豪快に食べる彼女の様を見て、シャーミアも置かれていた果実飴に手を伸ばし、舐め始める。幼い頃から、飴は長く楽しみたいタイプだった。


「だが、余のその打算も『かくの勇者』と一対一であると想定した場合に限る。勝てる見込みも、与えられる有効打も、邪魔が入っては上手く作用しないだろう。――そこでお主にうってつけの役割がある」


 ようやく出番かと、飴を舐めながら話に聞き入る。だが、大して期待はしていなかった。

 これまでシリウスと接してきて分かったが、彼女は少しシャーミア自身に対して過保護である節があった。それはきっとウェゼンの件から、負い目を感じているからこそ出るものなのかもしれなかった。

 だから、続く彼女の言葉に、危うく果実飴を落としそうになってしまった。


「城内の人間を全て引きつけてほしい」

「は――?」


 城内の人間を全て?

 幾ら彼女の言葉を脳内で反芻させたところで、腑に落ちることはない。

 何も言えないでいると、シリウスは合点がいったようにさらに付け足した。


「ああ、城内の人間と言っても戦える者のみを引きつければよいぞ?」

「そこじゃないわよ!? アンタ、城内に何人の憲兵隊がいるか知ってるわけ!?」


 彼女が言う城とは、サグザマナスの北部に位置する、湖畔に浮かぶサグザマナス城を指しているのだろう。

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