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魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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『珠の勇者』ミボシ

目が覚めた後、優雅に佇むのは――

 東都アウラムは島国だ。保有する国土は大陸にある各国と比べれば小さいものだったが、豊かな海洋資源と島独自の気候による多様な農作物の栽培により、その島の経済は潤っていると言えた。

 わざわざ大陸から島国へ訪れようという者は、余程のモノ好きか商人しかいない。それでも、その商人たち相手に特産品を売り、また大陸からも多様な文化を取り入れる。

 規模の小さい国ながらも独特の文化が形成されていた。


「あら、今日はパンと珈琲なん?」

「ええたまには。朝、町のパン職人から取り寄せたモノですよ。毎日、米は飽きるでしょう」

「それ、町民の前で言うたら大目玉食らうで」


 クスリ、と。意地悪い言葉と共に艶やかに笑うと、食器に乗ったパンを千切り口へと運ぶ。芳醇な小麦の香りと仄かな甘みが口内に広がる。

 注がれた珈琲に口をつけると、香ばしい匂いが鼻孔をくすぐり、口に含むと上品な苦みが喉を過ぎていく。

 ここにあるほとんどが国外から取り寄せたモノだ。パンも珈琲も、それが乗った食器や机。彼女が座るソファや吊るされた照明など。

 部屋にあるそれらは、まるで東都の光景とは思えない。これも全て、この建物の主である彼女が望んだもの。


「本日の予定ですが」


 珈琲の入ったカップから口を離す。傍らに立つ、狐の面で目元を隠した女性が何かの帳簿を見ながら口を開いた。


「ご朝食の後、浄化の依頼が八件入ってます。その後、湯あみの時間を取っていますので、それが終わり次第、『祝呪の解き』についての会議があります。その後は――」

夜刀神(やとがみ)との会合、やろ?」

「はい。日課ですから」


 淡々と告げる彼女に、わざとらしく溜息を吐く。カップを置いて立ち上がると、美しい濃紺の髪が僅かに揺れた。


「『祝呪の解き』まで、あと十日。百年も、あっという間やね」

「百年に一度、夜刀神(やとがみ)を再封印するための儀。いつまで続ければいいんでしょうか」

「ずっとやろ。ずぅっと、あてらは、あの呪いの王と付き合うていかなあかんね。それが、東都アウラムが助かるための、唯一の方法やから。……あの子が、残してくれた救いの道やで?」

「……ミボシ様」


 いつもと違った様子の声に振り返ると、いつもと変わらない感情の読めない口元が映る。


「なぁに? どしたん? なんか思い詰めてる?」

「私は貴女様にお仕えできてることが唯一の救いであり喜びです。そんなミボシ様が呪いで苦しみ、永劫の贄となってるこの現状が許せません」

「許さへんて、ほなどうするん? 余計なことしたら夜刀神やとがみの怒り、買うことになるで?」

「……夜刀神(やとがみ)を討ちます」


 彼女の声はそれまでにない覚悟の籠ったもの。冗談やその場しのぎで喋っているようには到底見えない。


「ふふ、本気で言うてる?」

「はい。どれだけ困難な道かは、理解してるつもりです。それでも、ミボシ様の身を自由にできるのなら」

「そうか。ほな、楽しみにしとかなな」


 会話はそれまでと、言わんばかりに視線を外す。

 彼女がそこまで考えていることには驚きはしたものの、全て話半分に受け取る。それは彼女が信用できないとか、頼りにしていないとか、そういった理由ではなかった。

 誰であっても、それは不可能なのだ。

 夜刀神(やとがみ)を討つということは、生命が老いることを拒否することに等しい。可能性があるとか、そういう問題ではなかった。

 ただその気持ちだけはありがたく受け取らせてもらう。彼女が傍に仕え始めてから二十年が経っていた。側近としては十六代目。多くの受難が付き纏うこの役目で、ここまで長く続いているのは久しぶりのことだった。


 だから、彼女を失いたくないという思いもある。

 しかし、彼女を尊重したいという気持ちもある。

 大丈夫だ。最悪のケースは訪れない。いざとなれば、自分が犠牲になればいいのだから。


「ほら、ぼうっとしてやんと、次の予定の準備しよか」


 ミボシはいつもと同じように、部屋を後にする。相貌は少女のように若くあどけなく、しかしその真相を他者に見せず。

 『珠の勇者』ミボシは、今日も東都アウラムの希望として、生きるのだ。

お読みいただきありがとうございました!


東都アウラムに咲く華として……


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