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魔王の娘  作者: 秋草
幕間⑤
239/263

東都アウラムへ

その頃アウラムへと向かう一行は……?

 海上では酷い揺れが続いていた。どちらが天でどちらが海面だかわからない。そもそもちゃんと地に足がついているかどうかも定かではない状況で、シャーミアが叫んだ。


「ねえ! あの氷の壁って――」

「シリウス様が創り出したものでしょうね。無事だといいんですが……」


 荒れる甲板で、波を大きく被る。それでもルアトとシャーミアは遠ざかっていく氷の壁を眺めていた。


「っていうか、俺たちも他所の心配をしてる場合じゃねえ!」


 カピオが慌ただしく、船内を駆け巡っている。この視界の悪い中、彼はずっと海の様子を窺いながら、操舵しているスズと連携を取り合っていた。


「ガハハハッ。今さらどうこう足掻いたところで変わんねェだろィ。生きるも死ぬも運否天賦。なるようになるってもんだ」

「……ですけど、(わたくし)も何か、役に立ちたいですわ」


 船内から顔を出すアセビと、歯痒そうに口元を引き結ぶリリア。その様子を見て、アセビは酒瓶を呷ってまた笑った。


「俺たちにできることなんてねェさ。スズちゃんを信用するしかねェ。嬢ちゃんもどうだ? 酒を呑みゃあ気分が落ち着くぜィ」

「――(わたくし)の国では飲酒は禁じられておりますの。それに、呑めたとしても、そんな気分ではありませんわ」

「そうかィ」


 また、浴びるように酒を飲むアセビから目を離し、舵輪を操る少女を見る。ひたすらに海を見つめ、必死に船を操作している彼女のおかげで、今こうして嵐の中を耐えている。何かできることがあればと、そう思うものの具体的なことは浮かばない。


「やっぱり何か――」


 焦燥感に駆られて、甲板へとリリアが出た瞬間。

 眩い光が船の傍を掠めていった。


「――っ!?」


 遅れて、遥か前方で爆発が起こり、衝撃で船がさらに揺れた。


「ちょっと、危ないわよ!?」

「あ、ありがとうございますわ……」


 傾いた船体に、海へと放り出されそうになったリリアを、シャーミアが咄嗟に掴んで引き寄せる。


「いったい何が……。まさか勇者様の攻撃ですの?」

「……ううん、違うわ。いや、そうかもしれないけど、そうじゃないの」

「……?」


 何かの確信があるかのように、シャーミアは荒れる海へと視線を投げる。その先には激しく漂う波間があるだけなはずだが、彼女はやがて船の縁へと向かい始めた。


「あ、危ないですわよ!?」

「大丈夫よ」


 ちらり、と。リリアの方を見てから、彼女は落ち着いた様子の声を投げて、また視線を戻す。

 そして、海に向かって声を飛ばした。


「――何やってんのよ。シリウス」


 ひと際、大きな波が飛沫を上げた。海水が甲板へと勢いよく入り込んで、思わず目を細めた。

 その、薄く浮かぶ視界に。

 リリアは見覚えのある紅い髪の少女を見た。


「シリウス様!?」


 思わず大きな声で叫んで、駆け寄ろうとする。しかし、立ち止まってしまった。

 いつもの彼女から、かけ離れた姿が、見えたから。


「……まったく、派手に吹き飛ばしてくれたものだ」

「シリウス様! お怪我を――」


 濡れた髪や衣服が肌に張り付いている彼女は、普段の凛々しい恰好からは程遠い。傷や汚れとは無縁だと、そうリリアは思っていた。


「この程度、どうということはない」


 血が溢れ出す脇腹を手で押さえて、涼しい顔でそう口遊む。僅かに傷口を押さえる手は発光している。恐らく回復魔術だろうが、傷の治りが遅い。


「シリウス様。体に触れることをお許しください」


 ルアトがいつのまにか持ってきていた布で、濡れた彼女から水滴を払う。雨で再び濡れてしまうのではないかと思ったのだが、不思議と彼女の体に再び水滴がつくことはなかった。


「わ、(わたくし)もお手伝いしますわ!」

「ああ、頼んだ」


 杖を取り出し、すぐに回復魔術を施す。抉られた脇腹から流れ落ちる血は止められたが、傷口が塞がりにくい。


 ――勇者様の魔力が、回復を阻害していますの……?


 魔力で触れて、わかる。シリウスの傷口には毒のように、『星の勇者』の魔力が纏わりついている。あまりに主張が強いそれは、他の魔力を受け付けにくくしているようだった。


「……アンタがここまでやられるなんてね」


 シャーミアがそう声を震わせた。表情にこそ出ていないが、その瞳には不安が滲んでいるように見えた。

 それをシリウスは、わかっているのかいないのか。いつものように応える。


「彼奴も本気を出した。余もそれに答えた。結果は、痛み分けといったところだろう。案ずるな、もう『星の勇者』はしばらく追ってこれぬ」

「……別に、そっちの心配は――」


 シャーミアが何かを言おうとしたその時、船がさらに大きく揺れる。それまでも大規模な揺れは何度もあったが、地響きのような揺れは初めてだった。


「申し訳ございません、紅蓮の童子」

「……スズか。舵輪から手を放しても良いのか?」


 白い髪を濡らす少女、スズが先ほどまで操縦していた舵輪から離れて、シリウスの元に歩いてくる。

 彼女は膝を折り、曇らせるその顔を俯かせた。


「……もう操舵の意味を失っちまいました。今この船は、大渦の中にいます」

お読みいただきありがとうございました!


大渦に巻き込まれたシリウス一行の運命は――!?


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

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