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魔王の娘  作者: 秋草
幕間⑤
238/263

『星の勇者』セフィカ=バルザ⑤

過去に思いを馳せ、セフィカは何を想う――

 その出来事をきっかけに、自分の中に一つの考えが定着した。

 それは、正義を導く者がこの世界には必要だということ。

 あの獣に襲われた後、唯一生き残った少年だけが、フラフラの状態で村へと戻った。それを見た村の人間は、森へと獣を襲いに向かった。先ほどの獣が、魔獣だと知ったのもその時。村人たちは火を放ち、無関係な動物たちまで巻き込んで、魔獣を追い込む。そして、雄大と言えた自然は灰と死の残り香だけを残して消えた。


 それでもまだ、全ての獣を討ち滅ぼそうとする村人たちを止めたのは、当時『星の勇者』だった祖母だ。彼女は各地での勇者の活動を終えて、一度村に戻ってきていたのだが、この状況を嘆き、それから怒った。

 当然の反応だ。こんなイカれた村に孫を残しておけないと、その少年を祖母が連れ出した。


 それが、旅の始まりであり。

 セフィカ=バルザという勇者の誕生でもあった。


 祖母との旅の中で、幾つもの厄介ごとに巻き込まれた。盗賊に襲われたという人を救い、魔獣に悩まされている人の手助けを行い、自然災害に襲われる国に手を貸した。

 多くの人々を助けた。様々な過ちを見かけた。俯瞰し、客観的に物事を捉えた時、この世界に必要なものが浮き彫りとなった。

 それこそが、正義を導く者の存在。


 間違った道を進もうとしている人がいたら。

 辿り着く先が行き止まりであることを知らずに、歩んでいる人を見かけたら。

 道に迷っている人。悪路に向かう者。

 この世界には、導き手がいる。それも、正しく強く、明かされている者が必要だ。


 だから、そのために手を伸ばし続けた。届く範囲で、届かない範囲でも可能な限り。救える者を全て救う。

 もしも導く者がいれば。

 あの時、魔獣に友人が食われることもなかっただろうから。

 二度と、そのような惨劇を産むわけにはいかないと、誓ったから。


 だから――


 止まるわけにはいかなかった。


「――……っ」


 周囲が凍てついている。わかっている。これはあの勇者殺しの魔術だ。大規模な水流魔術にそれら全てを凍らせる二重詠唱。知っている限りでは、たった一人しかその使い手はいないはずだが、そのことを考える余裕を、今は持てない。

 幸い意識ははっきりとしている。体が動かないのは、動かせるだけの空間が十分にないから。体にまで氷は到達していない。

 改めて、握る槍を握り直す。

 注ぎ込まれた純度の高い魔力は、周囲の氷すら溶かし始めていた。

 魔王の娘。

 彼女が良いモノか悪いモノか。どうにもはっきりとしない。勇者は人を導く存在だ。それを殺して回るということは、正義を乱す意志を持つということ。そう思っていた。


 だが、実態は違う。彼女は『涙の勇者』を殺さないし、『星の勇者』も殺さない。セフィカに至っては、彼女の言う復讐の対象であるにも関わらず、だ。

 さらに無辜の市民を守ったり、街に危害を加えていた魔神臨在学会(セプテントリオン)の討伐にも手を出していた。

 彼女を信頼するべきか。

 それとも現在の罪を見るべきか。


「いや――」


 辺りを取り巻く氷にヒビが入った。

 自分が迷ってどうする。それでは本当に導き手が必要な者を救うことができない。

 問題ない。この判断が正しかろうが、なかろうが。

 全て――


「僕が、救う」


 槍がひと際大きく輝きを放つ。すでに自由に体を動かせるだけの空間はできた。魔力を注ぎこんだ代償として『擬態(フォルマ)先頭に立つ者(カイリオス)』は不安定になり、直に消失するだろう。

 それでも、構わない。そうすることこそが、正道を征くという意味なのだから。

 見据えるは氷幕の遥か先。姿も見えない東都へと向かう船舶。そこに、このありったけの魔力をぶつける。

 本来ならば、槍による投擲では掠りもしないほどの距離だ。

 だが、今の自分ならばそれも可能。全てを破壊してみせよう。


「―――――――っ!!」


 重く、動かすこともやっとな槍を、それでも力一杯振り絞って振り被る。

 筋肉が悲鳴を上げる。腕が千切れるほどの質量を纏うそれを。

 全力で、投げた――


「――っ!!!」


 腕が吹き飛んでいく。それが誰の腕なのか、そんなことはどうだって良かった。

 光線のように発射されたそれは、真っ直ぐに視線の先――、海を駆る船へと向かっていく。役割を失った体が反動で力なく吹き飛ばされていく中、辛うじて見えたのは、その眩いばかりの魔力の槍と。

 それを自身の体で受ける、紅蓮の髪の少女。

 空間を走る雷鳴のごとく宙を裂くそれは、凍った波の壁を軽々と破壊して。

 そして少女の体と共に、海を渡る船のすぐ傍を掠めて海に落ちていった。


「――クソ……」


 暗転していく視界。

 雨風に見舞われながら、セフィカは吐き捨てるようにそう呟いた。

お読みいただきありがとうございました!


星の勇者の全力の果てに――


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

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