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魔王の娘  作者: 秋草
幕間⑤
234/267

星嵐際会②

再び見えるシリウスとセフィカ――!

 暴力とも呼べるほどの騒音が、港に鳴り続けている。雨風が吹き付けて、地面が白く飛沫をあげる。

 その最中であっても、現れた勇者は傘や雨具すら身に着けず、ただそこに佇む。

 しかし悲壮感はない。雨に濡れ、風に曝されても顔色一つ変えずに、ひたすらにシリウスだけを見ている。

 睨むように。あるいは、見定めるように。


「昨日ぶりだな、勇者殺し。そんなに急いでどこに行くんだい?」

「アイクティエスでの用事は済んだのでな。これから次の目的地へと向かおうと思っておる。わざわざ見送りご苦労だ、星の子よ」


 『星の勇者』セフィカ=バルザはシリウスから背後の船、それからまた目の前に立つ少女へと視線を戻し、瞳を細める。


「行かせはしないよ、勇者殺し。君には聞きたいことが山ほどある。ここで捕らえさせてもらおう」

「ふむ、捕らえる、と。てっきり余を殺すために来たと思ったのだがな」

「君の考えを聞きたくなったんだ。勇者を殺して回っていると思えば、人や街を守る素振りも見せる。善か悪か、そのどちらに属するのか見極めてからでも、殺すのは遅くない」

「余は自分が善だとは思っておらぬ。どこから見ても、真っ当な悪役だろう」


 彼はその答えが気に食わなかったのか、整ったその顔を顰める。


「減らない口だな。それを決めるのは君じゃない。捕らえた後、他の勇者たちの審判を以て、処遇が決まるんだ」

「ならばその答えを余は聞けそうにないな。お主らの答えが出るまで待つつもりも、そして捕まるつもりも、毛頭ない」

「……アスア」


 セフィカが呟くと、白い衣装に金色の髪を携えた、白い羽の妖精が現れた。彼女は彼に向かって頷いて、そしてその周りを回り始めた。


「シリウス様!」

「余に構わず行け。案ずるな。後から必ず追いつく」

「しかし――」


 甲板から覗き込んで、様子を窺っていたルアトにそう告げる。一瞬、言葉を詰まらせた様子だったが、すぐに要求を呑み込んで甲板へと戻っていった。


「行かせると思ってるのか?」

「無論だ。お主は、すぐに余の相手で忙しくなる」


 そうして船が進み始めた。港から離れていくそれは大きく揺れて、今にも転覆しそうなほどに不安定ながらも、徐々にその距離を開いて海を滑る。

 そして同時に、セフィカの姿にも変化が生じる。

 周囲を回っていた妖精が光の粒子をバラまいて、それが彼の元に集まり形となる。輝く光の粒子はやがて白い翼へ。

 そして彼の手元に輝く大斧を創り出した。

 見違えるほどの変化はない。背に生えた純白の羽に、手元の武器。そして頭上に浮かぶ歪な白い輪が増えたぐらいで、それ以上はない。

 しかし、放っていた圧が明確に異なる。それまで彷徨っている様子だったセフィカの持つ雰囲気は、凍土のような冷たさを帯びて走る。


「フェルグから、戦闘の許可は貰った。この嵐で周囲に人もいないし、この辺り一帯は倉庫群含めて、老朽化で取り壊す予定だったらしい」

「何が言いたい」


 白い羽を羽ばたかせて、彼が宙に浮く。視線はシリウスから、そして航海を始めたシャーミアたちの乗る船に伸びていた。

 空まで飛べるようになると、セフィカは船に追いつけてしまうだろう。彼の力が尽きるまでその相手をしなければならない。

 セフィカが斧を構えるのと、シリウスが彼と船の間に跳躍して割り込んだのはほとんど同時。

 斬撃程度ならば止められる、と。彼の攻撃を止めるべく飛び出したシリウスは、しかしその背後に声を聞いた。


「――思いきり、暴れても良いということだ!」


 斬撃と衝撃が全身を貫いた。

 そのままシリウスの体は倉庫へと吹き飛ばされて、戦塵を立てる。


「この程度でくたばるとは、もちろん思ってない。立てよ、勇者を殺すんだろ?」


 石造りの倉庫が音を立てて半壊する。屋根ごと破壊された倉庫に雨風が入り込み、すぐにシリウスが戦塵から姿を見せた。


「余の【偏在最護(フィスティア)】にヒビを入れるとは、随分と立派な斧だ」


 言いながら、肌や衣服に刻まれた亀裂を修復させる。

 【偏在最護(フィスティア)】はシリウスの七つある特異星(ディオプトラ)の一つ。魔術結界を常時張り続け、さらにその効力も最大にまで増幅させるというもので、魔力探知にも引っ掛からないという優れもの。

 であるはずなのだが、薄膜のように張られていたそれが、勇者の一撃で砕けそうになったことに、シリウスは舌を巻く。

 そしてセフィカもセフィカで、無傷な彼女を見て、うんざりしたように落胆してみせた。


「……殺せるとは思ってなかったけど、傷一つついてないとはね。魔術結界か何かだろうけど、かなり厄介だ。これでも、全力だったんだけど」

「傷心せずとも良い。世の中、上を見上げればキリがないことばかりだからな」

「自分が化け物だということは認めるんだな」

「化け物は余だけで良い、ただそれだけだ。それ以外は等しく、変わらぬ命に過ぎぬ」

「さすがは魔王の娘だ。振る舞いはそれっぽいね」


 セフィカが斧を振る。上空から降り注ぐ斬撃は目にも留まらぬ速さで倉庫を潰していき、形すら残らない。

 衝撃による爆発と地響きが塵風を起こす中、突如、視界を濁す煙がくゆり、歪む。


魔王の疾風破る(レ=サーペスト)怒号の溜息(=ルスティカ)

「――っ!?」


 戦塵が一気に晴れた。シリウスの言葉と共に射出されたそれは、セフィカの眼前にまで迫る。


「あいにく魔術は――」


 しかし、セフィカのその言葉は、途中で止んだ。

 意図的に止めたのではない。止めざるを得なかったのだ。

 翼をはためかせるセフィカが咄嗟に避けたそれは、白い羽に命中しその純白に孔を形成させた。


「ほう、良い勘をしておるな。見えたわけではないはずだが」

「……瓦礫を、飛ばしたのか」


 シリウスの手には、先ほど崩れた倉庫だったその瓦礫が握られている。忌々しげにそれを睨むセフィカに、シリウスは持った石を降下してくる彼に向けた。


「風の魔術を乗せて、射出した。避けられぬほどの速さだったはずだが、さすがは勇者といったところか」


 再び、その石を風の魔術と共に射出する。ただの魔力の塊をぶつけるだけでは、『星の勇者』は崩せない。魔力を帯びない物質で、戦う方法を取らざるを得なかった。

 そしてセフィカもそれを理解している。二度目の攻撃は当然通らず、彼は軽々とその飛んでくる礫を躱してみせた。


「なら、飛ばす余地もなく、接近するまでだ!」


 そして『星の勇者』は徐々に高度を下げながら、冷たい瞳を光らせて。

 態勢を反転させ、シリウスへと勢いよく迫る。

お読みいただきありがとうございました!


互いに攻防譲らず……!

シリウスは無事、シャーミアたちに追いつけるのか!?


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

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