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魔王の娘  作者: 秋草
幕間⑤
233/263

星嵐際会

嵐の港を前にして……

 雨風がより勢いを増していく。飾られている草木はその根ごと剥がれそうなほどに揺れ、空を見上げれば今にも落ちてくると錯覚するぐらいの重い雲が渦巻いている。

 当然、港に繋がれている船は大きく波打ち、不安定なままで転覆にまでは至っていない。


「凄い嵐ね……っ」

「これではまともに船なんて動かせませんわ!?」


 シャーミアとリリアが口を揃えて現状を漏らす。確かにこのままでは出航もまともにできるわけがない。それはシリウスとしても同感だった。

 しかし、それに異を唱えたのは東都の二人組だ。


「それに関しちゃァ、心配いらねェよ」

「あっしに任せてくだせえ。どんな嵐であっても航行で失敗したことなんて、このキジカクシ=スズ、一度たりともありゃしません」


 どれだけ波が立とうとも、どれだけ風が逆らおうとも。今目の前に広がる光景を見て、そう言い切れるのは中々の自信の顕れだと感心する。


「余程操舵の技術があると見えるな。では、この身、お主らの腕に預けるとする」

「は、必ずや無事にアウラムへと送り届けてみせましょう」


 スズの堅苦しい言葉に頷いて返す。出航は問題なくできそうだ。後は何事もなければと、様々な懸念が頭を過ると共に、港の端から大声が聞こえてきた。


「おい! こっちだ! これが俺の船だよ」


 嵐にも負けないほどの大きな声を上げる彼の元に向かってみると、その眼前には人が十数人は乗れるであろう、立派な帆船が浮かんでいた。


「随分と立派な船ではないか」

「ああ、商人はやっぱり身なりを気にするからよ。いや、それより本当にこの嵐の中、船を出すのか?」

「無論だ。こうして操舵士と案内役も連れてきた」


 言いながら、東都の二人の自己紹介も行う。カピオは先ほど見かけた二人がこの場にいることに驚きながら、感心したように息を吐いた。


「剣呑な雰囲気だったのに、よく一緒に行動することになったな」

「こっちにも事情ってのがあってねェ。あんたも、さっき宿から顔出してたやつだろィ? 俺たちよりも早く港に着いてるなんて、どういうカラクリだィ?」

「知らないのか? ここは海運都市アイクティエス。陸路よりも水路の方が、断然早えのよ」

「そいつァ知らなかったな」


 大きく口を開けて笑うアセビに、スズがその脇腹に肘を打った。


「バカ言ってねえで、早く出航準備に取り掛かりましょう」

「スズちゃんは厳しィねェ。もうちょっと可愛げがあってもいいって、おじさんは思うぜィ」


 そんな緊張感のないやり取りを見ながら、シャーミアが船へと乗り込んでいく。


「なんか、一気に賑やかになったわね」

「旅とはそういうものじゃないですか? シャーミアも、満更でもなさそうですが」

「別に? あたしはちょっと騒がしいなって思っただけよ」

「君も大概、可愛げがありませんよね」

「なんでアンタに可愛げ見せないといけないのよ。言っとくけど、あたしも本気出せばちゃんと可愛くできるわよ」


 それを見ておろおろとしながら止めに入るリリア。こちらの面子も賑やかさで言えば負けていない。

 それを様子を終始見届けていたシリウスは、懐からズシリと重い袋を取り出し、甲板へと投げ入れた。


「っと……、って重っ!? シリウス! これ何よ!?」

「金貨だ。ざっと、この街に豪邸を建てるぐらいの財は入っておる」

「え!? そんなもの、なんで急にくれたのよ?」

「お主にやったわけではない。それは、カピオに渡すものだ」


 出航の準備を進めていたカピオの方を向くと、彼も呼ばれたことに疑問を覚えたのか、手を動かしながら尋ねてくる。


「どうしてそれを銀髪のお嬢ちゃんに? シリウスのお嬢ちゃんが直接じゃダメなのか?」

「念には念を、という言葉がある。本来ならば余が直接渡すのが筋というものなのだろうが、あいにく物事はそう上手く進まぬ」


 これまでのことを思い返す。主に、この街に着いてからというもの、不測の事態の連続だった。


「『星の勇者』の登場。予定よりも早い到着。魔神臨在学会(セプテントリオン)の介入。そしてこの足止めをするかの如く、荒れる大海」

「……何を言ってるんだ?」

「すべてが、余に立ちはだかるように、回っておる」


 魔神臨在学会(セプテントリオン)の介入は完全に偶然なのかもしれなかったが、それを差し引いても、シリウスの不利になるように世界が働いている。


「これらは、彼奴の特異星(ディオプトラ)の影響だろうな」


 船から目を離し、背を向ける。その視界に広がるのは、倉庫群。港から届いた物資、あるいはこれから送り届けるためのものを置いておくための大きい倉庫が、幾つも連なっていた。


「故に、ここで終わるわけがない」

「その通りだ、勇者殺し」


 風の音が耳に騒がしく、波音が目立つ中、一人呟いたはずなのに返す声があった。聞き慣れたものではない。しかし、昨日一日だけで、嫌というほど聞いた声。その声の主は倉庫群の奥から、悠然と歩いて姿を現した。


「星の、勇者……!?」


 鉛のような鈍色の髪に稲穂色の瞳。優しいその双眸には軟弱さとはかけ離れた、力強さが湛えられていた。


「カピオ、シャーミアたちを連れて船を出せ。この勇者は、余に用事があるようだ」


 驚き、唖然としているシャーミアたちへ振り返らない。

 シリウスは背を向けたまま、カピオに対してそう告げた。

お読みいただきありがとうございました!


現れたのは星の勇者……!

シリウスたちは無事出立できるのか!


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

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