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魔王の娘  作者: 秋草
幕間⑤
232/263

東都からの使者

現れたのは東都の二人組……

 突如現れた東都の伝統衣装を身に纏う二人組に、シリウスは警戒を高める。これが『涙の勇者』が言っていた増援の可能性もある。自らのことを探していたというのが、何よりの証左だ。


「……カピオは出立の準備を。シャーミアたちは先に港に行っておいてもらおう。どうやら、この客人たちは、余に用事があるようだからな」


 シリウスのその言葉に、カピオは頷いて宿へと戻り、シャーミアたちも港へと向かおうと背を向けようとした。

 だが――


「いきなりで悪ィけど、俺たちァあんたの実力を測りに来たんでよォ。紅蓮の子の一味が、どれほどのもんか、お手並み拝見といかせてもらうぜィ」


 言うが早いか、それまで喋っていた無精ひげを生やした男が、手を腰元に充てる。そこにあるのは刀。彼は、その柄に手を添えると、静かに口を開いた。


刀霊解放(とうりょうかいほう)酩酊止水(めいていしすい)―」


 その言葉と共に鞘から刀が抜かれた瞬間、歪な雰囲気が周囲に広がった。敵意や殺意といったような、得体の知れない空気ではない。

 もっと単純で、もっと直感的。

 それは、香ばしいような甘いような、様々な要素を含んだ匂い。その一気に広がった香気が鼻や肌を刺激する。


「これは……」


 シリウスがその正体を口にする直前、背後が突如騒がしくなった。


「シャーミア!?」

「顔が真っ赤ですわ!? それに、この匂い……」


 そこでは息を荒くしたシャーミアが、ルアトに支えられてぐったりとしている。シリウスの感じていた匂いが背後の彼女たちにまで届いているらしく、三人とも顔が紅潮していた。ルアトは僅かに色がつく程度だが、シャーミアとリリアは肌全体が真っ赤に染まっている。その彼女たちの足元はふらつき、立っていられるのもやっとといった様子だ。


「毒なら……、すぐに、治療をいたしますわ」


 辛うじて回る呂律で、リリアが杖を振るうと、みるみるうちに全員の顔色が元に戻る。


「はあ……。ありがとね、助かったわ」

「戻ったみたいでなによりですの」


 背後の騒ぎが集束したのを見て、安堵したシリウスは、再び目の前に立つ男を見る。

 初めは毒かと思ったが、個体差のある症状に、肌の紅潮。それになによりもこの鼻をつく独特な香り。

 シリウスはその正体を知っている。


「――これは、酒だな」

「おォ、ご明察。やるねェ!」


 刀を片手で持ちながら、もう片方の手で顎を撫でる男は、満足したような表情で刀を鞘に納める。


「ふむ、やらぬのか?」

「とんでもねェ。俺ァは刀の効果が及ぶ相手としかやりあいたくねェからよ。それに言ったろォ? 実力を測るためだって」


 そして男は被っていた笠を外し、胸元に寄せるとニヤリと笑った。


「順序が逆になっちまったなァ。俺ァ、テンリョウ=アセビ。アウラムからの使者だ」


 その自己紹介に倣うように、隣に立って見守っているだけだった少女も、笠を外し胸元にそれを置く。


「同じくアウラムからの使者、キジカクシ=スズと申します。あっしらの使命は、アウラムを脅かす悪と対峙できるほどの実力者を探し、東都まで連れてくること。昨夜の戦いぶりを見て、こうして面と向かわせていただきました。どうか、突然のご無礼をお許しくだせえ」


 深々と腰を折るスズに対して、アセビは大きく口を開けて笑う。


「いやァ実際すげェ人だ、あんたァ。酩酊止水は周囲の生き物を酩酊状態にするってもんなんだけどよォ、いくら酒に耐性があるやつにだって大なり小なり俺の力は働くもんだ。だけど、紅蓮のあんたはものともしねェ。大したもんだ」


 緊張感の欠片もないアセビに、シリウスがその瞳を細めて視線を投げる。


「悪いが余たちは急いでおる。遊ぶのなら別の相手を見繕うことだな」


 アウラムへ向かうということは伏せて、すぐに踵を返そうとした。『星の勇者』には魔力探知を持つ妖精がついている。今は分体を使って別の方角へと誘導しているが、それが看破されるのも時間の問題だろう。

 故に、この東都からの使者と話している暇などないわけだが、彼らはさらに食い下がってくる。


「目的地は東都アウラム。目的は勇者ミボシ様との謁見。そうだろィ?」

「……何故知っておる」

「あァ、『涙の勇者』様にお伺いしたんだ。紅蓮の少女について聞いたら、あれこれ教えてくれたぜィ」

「はあ、まったく彼奴は……」


 それを聞いて、全て合点がいった。フェルグの狙いはシリウスたちを無事にこの街から離すこと。そのために、この使者たちを都合よく使おうという魂胆なのだろう。


「どうか、お願いです。あっしらと一緒に、アウラムに来ていただけやしませんか?」

「……目的地は同じだ。だが、余たちには余たちのアウラムへと向かうための手段がある。お主たちは余に何をもたらす?」


 アウラムに共に向かう分には構わない。現状、敵意も害意もない彼らの話に乗るのも吝かではない。

 ただシリウスは確かめるように、その言葉で思考を探る。


「無事にこの街からの脱出を手伝いましょう。アウラムまでの操舵なら、迷うことなく可能ですんで」

「それについてからのミボシ様への謁見も、俺たちが話を通す。労なく、あんたらはアウラムで目的を果たせるわけだ」


 二人の言葉にしばし考え込む素振りを見せる。彼らは彼らなりの役割を果たそうとしている。正直、彼らのことはまだ信用に値しないわけだが、こうして話し合っている時間が惜しいのも事実。

 シリウスはすぐに溜息と共に、言葉を吐き出した。


「……わかった。共に行こう。ただし、少しでも怪しい動きをすれば、すぐに船から投げ捨てる」

「そりゃあ恐ろしい。そうならねェように、最善を尽くさせてもらうぜィ」


 アセビは余裕の表情を崩さないままに笠を被り直し、スズも同様に笠を被る。


「先を急ぐぞ。お主たちのせいで時間を無駄にしたからな」

「へいへい」


 そうして、シリウスはシャーミアたちに目配せして、すぐに男たちと共にその場を離れるのだった。

お読みいただきありがとうございました!


果たしてシリウスたちは無事にアイクティエスを出立できるのか


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

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