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魔王の娘  作者: 秋草
幕間⑤
230/263

商人カピオ③

アイクティエスの宿で、一人の商人が溜息を吐く……

「ちょいと、カピオさん。まだ宿泊していくのかい? 宿泊費、今日の分までしかもらってないんだけど」

「え、そ、そうだっけか? すまねえ、すぐに部屋に取りに戻る!」

「まあ、お金はいつだって良いんだけどさ。なんか昨日からぼうっとしてないかい? 医者にでも行った方がいいと思うよ?」

「ああ、いや、大丈夫さ。これぐらい自分でなんとかできるからよ」


 思わず早口で言葉を並べると、そのまま逃げるようにフロントから立ち去った。

 そこはカピオがアイクティエスへと来てから、ずっと宿泊している宿。規模は小さいが、心遣いが行き届いており、過ごしやすい場所だ。宿のオーナーがお節介焼きなのが、少し瑕だが。


「はあ……」


 部屋へと戻る途中で、堪え切れず重々しい息を吐き出してしまった。

 オーナーにも気付かれていたが、どうにも思考がぼやけている。昨日まではそうじゃなかった。ここに来てからずっとそうしていたように、商機を探して、熱意と共に街を歩き回っていた。

 その結果見つけたのが、昨夜の取引の話だ。そうだ。あそこから全てがおかしくなってしまったのだ。

 取引があると騙されて、勇者には殺されそうになって、背中に傷を負った。傷は既に治療してもらったが、それら事実の積み重ねが、カピオの心に重く圧し掛かっていた。

 そして何より――


「俺、商売向いてねえのかもな……」


 懐から、一枚の紙を取り出して、また大きく溜息を吐く。それは、昨夜詰所にて衛兵から受け取ったもの。そこには【取引禁止】の文字が躍っている。

 詰所に連れて行かれてから、色々と聞かされた。闇取引のこと。今回自分は巻き込まれただけだということ。本来闇取引を行った者には罰が与えられるが、騙されただけということもあり、その罪は不問となること。

 正直、自分でも何が何やら理解できていなかった。衛兵から話を聞かされて、ようやく現状の把握ができたぐらいだ。

 そんなカピオに、衛兵から一枚の紙と共に、信じ難い言葉を渡された。


 それが、アイクティエスでの一切の取引の禁止、だった。


 あくまでも一時的とは言え、商売人にとっては致命的すぎる処置。これならいっそのこと処刑にしてくれた方がマシだとすら思える。

 当然、抗った。どうにか取引だけでもさせてくれないかと、その場で打診した。しかし、それが認められることなどあるはずもない。

 結果としてカピオは紙を受け取って、その処置を受け入れていた。

 いや、受け入れざるを得なかった。自分にも非はある。怪しい取引であることは薄々勘付いていたし、あの紅蓮の髪の少女からも忠告を貰っていた。その上で、目の前の金に眼が眩んで、馬鹿をやってしまっただけの話。

 呆れこそすれ、文句を言う権利などどこにもない。


「騙されて、傷つけられて。助けられて、その恩も返せず。何やってんだろうな、俺は……」


 これでは人に手を差し伸べるどころではない。自分のことも上手く世話できないのに、何ができるというのだろうか。

 昨日からずっと、そんなどうしようもない考えが付き纏って離れなかった。


「――っと、ちょいと! カピオさん! 聞こえてんのかい?」

「え、あ?」


 唐突に鳴った声で、思考の渦から引き剥がされる。はっと意識を揺り戻すと、目の前は泊まっている部屋の扉。どうやらいつの間にか辿り着いていたらしく、そのまま視線を声の主の方へと向けた。


「大丈夫かい? やっぱり医者に罹った方がいいんじゃ……」


 いつの間にいたのだろうか。宿のオーナーが不安そうな瞳をこちらへと注いでいて、慌ててそれへと首を振る。


「いや! 大丈夫さ! ちょっと考え事しててな。すぐに部屋からお金取ってくるから――」

「ああ、いやいや。せっつくために来たんじゃないんだよ。誤解させて悪いね」

「……?」


 ならどうしてわざわざ追い掛けてきたのだろうか。首を捻っていると、宿のオーナーが珍しいモノでも見たかのように、不思議そうに肩を竦めた。


「客人だよ。可愛い、お人形みたいな紅い髪の女の子が、あんたのことをご指名さ」

お読みいただきありがとうございました!


果たして、カピオの元を訪ねてきたのは誰なのか?


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

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