表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘  作者: 秋草
幕間⑤
229/264

海運都市からの旅立ち

急ぎ現れたシリウスは……?

「随分急じゃない? 朝からどこか行ってたみたいだけど、何かあったの?」


 ルアトもリリアも、準備をするべく部屋へと戻ろうとする中、シャーミアが腰に手を充てそう尋ねる。


「少し、『涙の勇者』のもとへ行っておった。この嵐の中、船が出るのかどうか。その際に許可が出るのか。訊いてきたのだが、結論は船は出ぬということだった」

「え、じゃあ出立できないじゃない」

「だが許可は得た。アイクティエスが動かす船ではなくとも、個人で所有する船で出航する分には問題ないそうだ」

「個人で所有するなんて、そんな伝手――」

「悪いが、考えておる暇はあまりない。『星の勇者』が増援を呼んだようでな。『涙の勇者』には借りもある。これ以上、この街で暴れることは避けたい」


 そう言うと、渋々と言った様子でシャーミアは溜息を吐く。


「まあ、急ぐのも今に始まったことじゃないわね。わかったわよ。……それじゃあね、テトラ。衛兵の仕事、頑張りなさいよね」

「あ、うん! シャーミアも、よくわかんねえけど、頑張れよな!」


 そのまま彼女は踵を返して、自分の泊まる客室の方向へと姿を消した。


「すまぬ。もう少しゆっくりと語る時間を取れれば良かったのだが」

「……お前がシャーミアの言ってたアイツだな」

「ふむ。彼奴がどう紹介したのかは知らぬが、いま一度名乗ろう。余はシリウス。わけあって旅をしておる者だ。お主のことは、ヌイを通して知っておる」

「ヌイ……、あの小さいお前みたいなやつか!」

「そうだな。色々とあったようだが、シャーミアと仲良くしてくれたこと、礼を言う」

「い、いや、お礼はオレが言いたいぐらいだよ。シャーミアのおかげで、こうして真っ当な道に進む決心がついたんだからさ」

「そうか。うむ、影響を与え合える関係というのは、良いものだな」


 変に畏まった様子の少女から視線を、その隣に立つ男へと向ける。彼はずっと、嬉しそうに笑顔を湛え続けていて、シリウスの方を眺めていた。


「お主のことも、知っておる。アルデバラン家の執事、ペルセミリスだな。リリアをずっと監視しておっただろう」

「おや、やはりご存知でしたか。これでも隠密行動に関しては、誰にも気取られたことはなかったのですが、さすが、と言ったところでしょうか」

「気を落とさずとも良いぞ。お主の気配遮断は完璧だった。リリアがケイナズに腕を斬られた時も、お主の心音は静かで凪いでおったからな。大したものだ。感心すら覚える」

「恐縮です。それもこれも、リリアお嬢様のため。内心、あの時の私の心は引き裂かれるような思いでした」

「わかっておる。それだけの覚悟を、お主が持っておる顕れでもあるということだ。リリアを見守るということに徹するその胆力。さすがは、アルデバランの家の者だな」

「お褒めに預かり光栄です」


 恭しく腰を折る男は、笑顔を崩さない。食えないやつだ、と。シリウスは内心ぼやく。気配を消す技術だけではない。戦闘に関しても彼は手強いだろう。森の奥深くにある湖面、その水面を思わせるほどに静かな闘志を、ペルセミリスからは感じられる。

 強かで、静謐。その男は、浮かべる表情をそのままに、帽子を取って胸元に寄せた。


「それでは私はこれにてお暇させていただきましょう」

「リリアに別れを告げなくともよいのか?」

「これで最後の別れというわけでもございません。また、ご挨拶に伺いましょう。それに本日は、お嬢様の覚悟を知るために来たのです。それが確認できただけでも、アイクティエスに訪れた甲斐があったというもの」


 再び帽子を被り直すと、ペルセミリスは音もなく、静かに宿の出口へと向かい始める。


「今日のことは、私の心に留めておきます。当主への報告は、私に一任されておりますので。お嬢様の旅路を実りあるモノにするために、如何様にもできましょう」

「……リリアにもそう伝えておこう」


 すれ違いざまにそう言葉を交わすと、白い衣装を身に纏った彼は宿を出て行った。

 そして、それと入れ替わるように、リリアたちがエントランスホールに戻ってくる。


「あら? ペルセミリスは?」

「彼奴は今ちょうど立ち去った。お主の覚悟、しかと伝わっておったぞ。随分と、愛されておるようだな」

「……そう、ですのね」


 リリアが窓の外を眺める。外は雨模様。強い雨粒が窓ガラスを打ちつけて、その嵐の勢いを物語っていた。


「それでは出立するとしよう。忘れ物はないか?」

「大丈夫よ。いつでも出発できるわ」


 シャーミアはそれから、テトラの方へと振り返る。


「じゃあ、元気でね」

「シャーミアもな!」


 短い言葉を交わし合う二人を尻目に、シリウスは一足先に宿の扉を開く。

 突風が紅蓮の髪を靡かせて、勢いよく吹きつけた。


「嫌な風だな」


 天蓋に広がる鉛雲を見上げて、シリウスはそう小さく呟いた。

お読みいただきありがとうございました!


嵐の中で、船を出してくれる当てはあるのか……!


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ