雨音強くて、嵐来る
幕間突入!
未だ昨晩の破壊が残る海運都市には、雨が降っていた。海に面したアイクティエスはそれなりに天気が悪くなることも多々あり、悪天候への対策もそれなりになされている。
舗道の水捌けや雨水の排水、防風のための柵や風で飛ばされそうな軽いモノは家の外に置かれていない。特に水路に関しては、雨水で溢れかえらないように、一時的に水を逃がす施設も所々に配備されている。
住民たちも迫る嵐への心構えは済ませており、いつものように雨戸を取り付けるなどをして準備を終わらせる。
「かァ~、昨晩は呑みすぎたねェ~……、頭ァ痛ェや……」
そんな中、人気の全くない通りに男性の声が漏れた。弱々しく吐かれたその言葉は強い雨音に搔き消されるものの、隣を歩く少女にはきちんと届いているようで、白髪の間から覗く黒い瞳をジトリと男へと向ける。
「言いながら呑んでりゃ世話ねえですよ。呑まなきゃ死ぬんですか?」
「良いこと言うねェ、スズちゃん。呑まなきゃ死ぬ人生だ! だから今日も呑むんだ、俺ァ」
「はあ……、早く酔い潰れて死んでくれませんかね」
「酒に潰されて死ぬなら本望よ、ガハハハ」
一人は中年の男。ぼさついた黒い髪に無精ひげ、紅の着物と紺の袴をだらしなく崩し、手には酒瓶が握りしめられている。
一人は少女。白い髪を後ろで纏め、白い着物と紺の袴をきちんと着こなしている。
そして二人とも頭上に植物で編まれた笠を身に着けていて。
その腰に刀を携えていた。
「おーい、あんたらこんな嵐の中どこに行くんだ?」
頭上から声が降りかかる。アイクティエスの住民が、その独特の衣装に身を包む二人を二階の窓から覗き込んでいた。
このアイクティエスには様々な人間が訪れる。そういう恰好をした人間も少なからず行き交っていて、大して珍しくもない。ただ、風雨が強いという状況も相まって、他に出歩いている者もいない。そんな状況で、彼らは浮いていた。
「いやァ、人を探してましてねェ。知りません? 紅蓮の髪が印象的な女の子なんですが」
「ああ、昨日の? 自分らも観てたけど、どこに行ったかは知らないな」
「ですよねェ。まァ、色々探してみますよ」
「悪いな。風も強いし、気を付けなよ」
それで満足したのか、覗き込んでいた住民は顔を引っ込めた。通りには再び、雨音だけが響き渡る。
「俺ァ全く覚えてねェんだけどよ、昨日いたって言うその紅蓮の髪の子はそれほど凄かったのかィ?」
「そりゃもう。ミボシ様と同列の勇者二人を相手取りながら、もう一人の刺客の攻撃から住民たちを守ってくださったんです。類い稀なる陰陽術の腕に、心優しき意思も持つ。これ以上の逸材はいりゃしません。あっしも、恥ずかしながら興奮しちまいました」
「へェ、そりゃあ大したもんだ。ヤトガミも祓えそうか?」
「それは……」
少女は言葉を濁し、俯く。黙ってしまった彼女の代わりに、男は酒を呷ると溜息を吐いた。
「まァ、こればっかりはわかんねェわなァ……。百年前にも祓おうとして、逆に怒りを買った。触らぬ神に祟りなしってェ、よくできた言葉だよなァ」
「アレは触らずとも祟る神でしょう。だから庶民は苦しみ、ミボシ様は我々のためにずっと戦っちまうんですから。あっしらの使命、忘れたわけじゃねえでしょう」
声のトーンが数段落ちる。重く、冷たい言葉だ。まるで刃物を突き付けるかのように、強く固い意思を纏う少女に、男も合わせるように頷いた。
「……あァ、当然だ。ここ海運都市アイクティエスは多くの旅人や商人が行き交う大動脈。腕の立つヤツの噂も、入ってくる。俺たちは来る『祝呪の解き』のその前に、ヤトガミを討つ」
「そうです。ヤトガミを討てる実力を持つ者。それを探して連れてくるのがあっしらの使命。紅蓮の童子がそれに適うかどうか未知数ですが、会ってみるのは良いでしょう」
「……っつってもよォ」
男は広がる水路に視線を向ける。そこはがらんとした雨降る街並み。話しを聞こうにも人影はなく、探す手立てもない状態だ。
「この広い街で、闇雲に探すんじゃ無理がねェかい?」
「テンリョウ殿の言う通りで。ですんで、ここは一つ、基本に立ち返るってのはどうでしょう」
「っつゥと?」
「『涙の勇者』に情報を求めるんです。初めここに来た時は知らねえようでしたが、数日経った今、状況は変わってます」
「まァ、昨日も戦ってたみてェだしな。何か知ってるかも知んねェな」
男も、少女の意見に賛同すると、雨風吹き荒れる中、笠を被った二人はアイクティエスの領主の屋敷を目指すのだった。
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本日より幕間⑤が始まります!
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