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魔王の娘  作者: 秋草
第2.5章 眠る星々と命脈のプリズム
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VS『星の勇者』②

「……君は確か露店の前にいた――」


 セフィカが漏らすように呟いて空を見上げる。その視線の先にいるのは蒼い瞳を持つ少女。確か先ほどシリウスは勇者に会いに行ったと言っていた。その時に彼女の正体を彼が看破していたかどうか、シャーミアは知らなかったが、今この場で目を丸くさせているということは、少なくとも予想外の出来事ではあったのだろう。


「おい! セフィカ! こいつの魔力やべえぞ!?」

「露店の前で会った時は、そんな感じはしなかったのに……」


 そして、セフィカの周りに漂う妖精たちも、驚嘆するような声を飛ばした。それらに目を向けることなく、ただセフィカはシリウスから視線を逸らさない。


「デインの妖精たちか。人間に懐くとは珍しいな」

「……君は、――君が勇者殺しだな」


 睨む視線がより鋭く険しく変貌する。言葉は棘のように鋭利に砥がれ、放つ雰囲気が燃えるような熱を帯びる。少しでもここを離れたくなるような、そんな殺気へと、切り替わっていた。

 シャーミアは水路から出て、石造りの地面を踏み締める。


「最早隠す道理もないな。お主の言う通りだ。余は魔王の第十二子。名はレ=ゼラネジィ=バアクシリウス。魔王討伐の場にいた勇者への復讐を果たす者だ」

「――っ!!」


 一瞬だった。

 シリウスの名乗りが終わらない、その内にセフィカの体は消えていて、気がつけばシリウスと同じ屋根の上に立っている。

 そしてそのまま、手にした剣を彼女に向けて振るった。


「……気が早いな。対話は無しか?」

「必要ないだろ」


 高い金属音は、彼女が勇者の攻撃を防いだ証だ。見上げればいつの間にか装備していたのか、シリウスは見たこともない黒いガントレットで彼の剣を受けていた。

 黒く、禍々しさすら覚えるそのガントレットは彼女の手の数倍はあるが、それを軽々と扱いシリウスは彼の剣を弾く。


「僕たちは殺すか殺されるかの関係でしかない。そうだろ、勇者殺し」

「短絡的だな。つまらぬ。魔獣でももう少し可愛げがあるぞ? それに、余が友好的に接する可能性もあるだろう」

「だとしてもだよ。君は既に二人の勇者に手を掛けている。それで簡単に許せるほど、僕は僕の矜持を捨てていない」

「そうか」


 再び剣が振り抜かれて斬撃がシリウスを襲う。ギィィン、と耳障りな音と共に、屋根の一部が崩壊するが、シリウスの体に傷はないようだった。

 それまでその光景を見ていたシャーミアだったが、すぐに我に返る。せっかく今はシリウスが時間を稼いでくれているのだ。テトラと、あの傷を負った男を助けなければ。


「ほら、今のうちよ」

「あ……、うん。ありがとう……」

「お礼はシリウスに言ってよね。悔しいけど、あたし一人じゃ、どうにもならなかった」


 と、そんなことを言うつもりはなかったが、つい口から出てしまった。シャーミアは首を振って、蹲っている男に肩を貸す。


「お、もいわね……、ヌイ、手伝える?」

「うむ! ついでに傷も治そう」

「お願い」


 ひとまずこの場を離れよう。またいつ勇者に目を付けられるかわからない。それに衛兵にもできる限り見つかりたくはない。


「お、オレも手伝うよ!」

「ありがと。重いわよ」


 隣にテトラが並び、一緒に男を運んでくれる。このまま闇に紛れてルアトたちが待機している場所に合流しよう。幸い、街の地理についてはテトラが詳しい。いざとなったら道案内をお願いできる。


「なあ、この小さいヤツはなんだ?」

「小さいやつとは無礼な! 余はヌイだ! 気軽に敬ってもらっても構わぬぞ!」

「変なヤツ……」

「変なやつではない!」


 突如、暗い路地に賑やかな会話が咲く。とてもではないが先ほどまで決死の状況だったとは思えない空気だ。


「はあ……、アンタたち静かにしなさいよね」


 そう注意するものの、かくいうシャーミア自身も緊張の糸は解れてしまっていた。何を安堵しているのだろうか、と。嫌気が差すが、今は反省している場合ではない。この結果を忘れないで、己の糧としよう。

 問題は――


「あいつ、勝てるわよね?」


 ポツリ、と呟く声が虚空へと消える。シリウスは『星の勇者』には勝てないと言っていた。もしかすると、このまま負けてしまうのではないか。シャーミアの胸中にそんな疑問が浮かぶ。

 心に現れたその感情の名前を、シャーミアは知らない。

 しかし、なんとなく、あの勇者にだけは負けてほしくないと思ってしまっていた。


「今までお主は何を見てきておったのだ?」

「……ヌイ」


 自信気に胸を張る小さなシリウスは、その手で優しくシャーミアの濡れた髪を撫でる。


「余が、お主を放ってどこかへと行くわけがないだろう。あれは強いが本体(シリウス)はもっと強い。安心するが良い」

「……うん、そうね」


 その言葉に頷くと、満足したのかヌイはひと際深い笑みを浮かべて、前方を飛行する。


「ほら、こっちだぞ!」

「わかったわよ」


 元気よく飛んでいくヌイから、夜の帳が下りた空へと目を向ける。案ずるのは、魔王の娘と勇者との戦闘の行方。瞬く星々を十分に視界に収めたシャーミアは、瞼を閉じて、そして再び開く。

 今、自分がやるべきことへと向き直り、シャーミアたちは路地を歩いていく。

お読みいただきありがとうございました!


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