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魔王の娘  作者: 秋草
第2.5章 眠る星々と命脈のプリズム
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『星の勇者』セフィカ=バルザ②

「ふう、今ので全員かな?」


 街中に突如として形成された長蛇の列は、レーヴァの尽力もあってか、一時間足らずで解消されていた。最後に握手をした子どもは、嬉しそうに親に連れられて立ち去っていく。その姿を眺めながら、セフィカは大きく伸びをした。


「そのようですね。お疲れ様でした」

「ありがとう。レーヴァさんがいなかったらずっと握手をせがまれていただろうね」

「お褒めに預かり光栄です」


 フェルグの執事、レーヴァは顔色一つ変えずに腰を折り、そしてすぐに移動をするよう腕を広げる。


「到着早々、お疲れでしょう。どうぞ、フェルグ坊ちゃまのお屋敷にてお寛ぎください」

「歓待、感謝するよ。でも僕なら大丈夫。せっかくだし、この街を見て回りたいんだ」

「……しかし――」

「駄目かい?」


 真っ直ぐな瞳でレーヴァを見つめる。それは、相手を責めるような言い方ではない。純粋な疑問としての、質問だ。


「ようやくたどり着いた観光都市で、観光もせずに引き籠るなんて味気ないと思わないか? もちろん遊ぶつもりじゃない。ちゃんと勇者殺しが来た時に備えて、この街の地理を知っておきたいんだ」

「はあ……、わかりました」


 レーヴァが渋々、といった様子で溜息と共に首肯する。


「ただし、夕刻までにはお戻りください。セフィカ様は著名な勇者。夜市にまで現れては街の混乱を招きますから」

「わかったよ。心配しなくても、さすがの僕でもその辺りは弁えているつもりだ」


 彼の表情を読みながら言葉を吐き出すと、レーヴァは小さく頷いて、その場を立ち去っていった。

 そうしてその場にはセフィカ一人。近くを流れる用水路のせせらぎが耳心地良く流れ、遠くからは人々の喧騒が聞こえてくる。


「ようやく解放されたね」


 誰もいないその場で、一人ごちる。返ってくる言葉もなく、誰にも聞かれていないはずのその声に、しかし反応する声があった。


「あら、その様子だと一人になりたかったの?」

「キシシ。人気者は大変だよなあ」


 少女のような声と、少年のような声。何もない場所から響いてやがて、僅かな光と共にそれらは姿を現した。


「アスア、レト、僕をからかわないでくれ。人気者だなんて、そんなのじゃないさ。でも、そうだね。どうやら僕は随分と疲れているようだ。変な勘繰りもしてしまう」


 現れたのはいずれも小さな人型の存在。アスアと呼んだ白い衣装に金色の髪を揺らす彼女は、小さな羽を羽ばたかせていて、レトと呼んだ黒い衣装に身を包む彼は、黒い蝙蝠のような羽をはためかせる。

 彼、彼女は俗に妖精と、そう呼ばれる存在だ。

 そんなアスアは、その小さな首を傾げて、純粋な瞳でセフィカを見る。


「勘繰り?」

「ああ、どうも『涙の勇者』は僕にできるだけこの街を歩いてほしくないみたいでね。もちろん、これは僕の勘違いかもしれないし、思い込みに違いないんだけど、態度というか雰囲気が変だったからね」

「そうかあ? 別に普通だったけどな? でも、今は一人にさせて、街も出歩いていいって話しじゃねーか」


 レトが笑いながら周りを飛び回る。この姿は他の人も見えるが、今この場には僕以外にはいない。存分に飛んでも、変な眼を向けられることはなかった。


「そうなんだよね。だからこれは僕の思い違いでしかない、ということにしようと思う。人を疑うのは疲れるからさ」

「そうよ。その方がいいわ。せっかく海運都市アイクティエスに来たんだから、楽しまないと!」

「遊びで来たわけじゃないんだけどな」


 苦笑いをするものの、アスアの言う通りだとも思う。難しいことを考えるのは得意ではない。嫌な予感というのも、いつもの感覚でしかない。セフィカはアスアの提案に乗ることにして、アイクティエスを見て回ることにした。


「ちなみにアスア。念のため聞きたいんだけど、異常な魔力反応とかないかい?」

「え? う~ん……、今のところは何も。『涙の勇者』の魔力でこの街が満たされてるぐらいで、特別変わったことはないわ」

「そうか。かの魔王の娘ともなれば、異常なほどの魔力を持っていると思ったけど、やっぱりまだ到着していないようだね。魔力を抑えているのかもしれないけど」


 妖精であるアスアは魔力探知の能力を有している。勇者殺しの魔力があるかは不明だが、膨大な魔力が現れればすぐに気が付けるだろう。もっとも、魔力を垂れ流す行為を、勇者殺しがするとも思えない。故に、アスアへの確認はただの自己満足にすぎなかった。


「それじゃあ行こうか。アスアもレトも、悪いけど他の人がいる前では姿を見せないでくれ」

「わかってるわよ」

「キシシ、任せとけって」


 くるりと、その場で回ると彼、彼女の姿が消える。それを見届けたセフィカは風に流されるように、喧騒届く街の中心部へと歩み始めた。

お読みいただきありがとうございました!


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