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魔王の娘  作者: 秋草
第2.5章 眠る星々と命脈のプリズム
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魔王の娘と勇者の息子は静かに語る 前編

「余を呼んだか?」


 重厚な黒檀でできた扉を開くと、そこにいたのは何か言いたそうな瞳を向けてくるフェルグとすまし顔の彼の執事。そこはこの都市を治める領長の執務室。シリウスが扉を閉めると、この都市のリーダーはうんざりしたように開口一番吐き出した。


「ああ、呼んだよ。まったく、どれだけ朝食をおかわりすれば気が済むんだ? 六回はしたって聞いたぞ」

「ここの朝餉は中々に美味かったぞ。お主に呼ばれなければあと二度、ご馳走になっておっただろうな」

「ちょっとは遠慮ってもんを知らないのか、この箱入り娘は……。言っておくけど、何も俺はお前を歓迎したりもてなしてるわけじゃない。様子を見ているだけってことを、忘れるなよ。別に俺はお前に恨みはないけど、お前犯した罪は、消えないんだからな」

「重々承知しておるとも。余が何をしておるのか、何をしようとしておるのか。それを理解しておらぬほど、単純ではない。それに、余としてもお主と慣れあうのは避けたいからな」


 ただ、異国の地の料理をゆっくりと堪能する機会はこれまでなかった。腹を満たすだけならば水を飲めばいい。栄養を摂取するだけならば果実や昆虫をそのまま食べればいい。だが、シリウスがそれを耐えられない。

 これまでも、魔王城に籠っている時にはウェゼンに様々な食事を持ってきてもらっていた。料理と呼べるかどうか怪しいモノもあったが、とにかくシリウスはその食事を楽しみにしていた。

 故に、食事を食べられる時には食べる、というのが常にシリウスの中にある。


「それで、余を呼んだのは何も朝餉のことを咎めるためだけではないだろう」

「当たり前だろ。雑談はここまで。これからは仕事の話だ」


 眼鏡を指で押さえると、フェルグは机の上で手を組みシリウスへと鋭い視線を飛ばす。


「昨日、闇取引を邪魔して欲しい旨は伝えたよな。取引のある正確な時間帯と場所がわかったから、それの連携だ」

「ふむ、確か魔道具の密売を防ぐという話だったな。大規模な取引であれば一目見ればわかるとは思うのだが」


 魔道具の一つや二つの取引ならばすぐの特定は難しいだろうが、大量にモノがあるのならば目立つだろう。市民や衛兵が目撃していてもおかしくはない。取り締まるのも難しくない話だとは思っているが、しかしフェルグは首を横に振った。


「言っただろ。粗悪品が大量生産されてるって。場所はこの地図を渡すけど、時間は夕方から行われる夜市の間で行われるらしい」


 執事が足音もなく近づいてきて、一枚の紙を渡してきた。それに目を落とすと、この街の地形が細かく書かれており、幾つかに丸印が打たれている。恐らくそこで取引が行われるのだろう。それをしまいながら、シリウスは戻っていく執事を尻目に疑問を投げ掛ける。


「夜市か。人が多いところだとより目立つと思うのだが……」

「どうやら、今回の取引では魔道具そのもののやり取りが行われるわけじゃないらしいんだよ」


 フェルグの言葉に眉根を上げた。モノではない取引ならば確かに無関係な人の数は関係ない。寧ろ紛れやすくなるのだろう。それは理解できたが、では何を取引するのか。


「なら、余たちは何の取引を阻止すればよいのだ」

「設計書だ」


 冷静な声が執務室に響く。時計が針を動かし、時を刻む音が一定間隔で鳴り続ける。

 なるほど、と。シリウスは内心納得し、その時を刻む音を打ち破った。


「闇売人、名は確かオートカールと言ったか? 其奴が何を企んでおるのかは知らぬが、その魔道具を市場に出回らせたいのならば、技術を普及させた方が早いだろうな」

「その通り。オートカールの目的はわからない。ただ、捕らえたヤツの部下の話を聞くに、これはデモンストレーションらしい」

「デモンストレーション?」

「そうだ。粗悪な魔道具をバラまいて、それが浸透した頃に、法外な値段で正規品を売りつける。魔道具に中毒性があるわけでもないけど、人間は欲深い生き物だからな。現状じゃ満足できないヤツらは、それを買うだろうってことなのかもな」

「……なるほどな。其奴の狙いが何となく掴めた」


 静かに告げるシリウスに、フェルグは眉を顰める。疑念、あるいは訝しむように向けられる視線に、シリウスは少し思考を整理して、それから口を開いた。


「新たな市場を作るのが狙いなのだろう。今それが必要のない者への、魔道具の販売。これができれば、利益は莫大なモノになる。ほとんどの人間が顧客対象となるのだからな」

「……だけど、売られる魔道具は人を傷つけるモノだ。一般市民がそんなものを欲しがるか?」

「ならば、それが必要な世の中にすればいいのだろう」

「――そうか、言いたいことはわかったよ」


 フェルグが眼鏡を外し、目を瞑る。それから目頭を強く指で押さえる仕草を取った。おおよそ少年らしくないその所作に、彼の心労を伺える。その上でシリウスは言葉を濁さない。


「武力は人に全能感を与える。ある意味、中毒性があると言えるだろう。それを必要とするために、まずは武力をばら撒く。そしてその先にあるのは混乱。力なき者への武力の平等化を成した後に待っているのは、無秩序な暴力が振るわれる破滅の未来だ」

お読みいただきありがとうございました!


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