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魔王の娘  作者: 秋草
第2.5章 眠る星々と命脈のプリズム
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海運都市アイクティエス⑨

「その、ごめん。ほら、財布。濡れちゃったけど……、でも! 中身は使ってないから!」


 テトラが脅えながら差し出した財布は、先ほど盛大に川に飛び込んだ影響でずぶ濡れ。湿ったそれを、しかし返却された青年は素直に笑って受け入れた。


「はは、こうして戻って来ただけでもラッキーだよ。まあ悲しいことに中身はそんなに入ってないんだけどさ」

「というか盗まれたアレフに問題あるんじゃねえか? 旅先では魔術の使用が制限されてるからって、油断しすぎ。もっと鍛錬しないとな」

「うるさいな。そんなの俺が一番よくわかってるよ」


 もう一人、隣にいた青年に脇を小突かれてバツが悪そうな顔を示す青年だったが、やがてテトラの困り顔に気がついたのかわざとらしい咳払いをする。


「改めて、俺はアレフ。隣にいる意地悪い男がザインで、後ろで成り行きを見守っている女子二人がレイシュとシンだ」

「レイシュよ。よろしくね」

「シンと言います。よろしくお願いします」

「おいこら、誰が意地悪い男だ」


 そう言って笑い合う彼らに、テトラもようやく不安から解消されたようだった。


「というか、皆さん怒らないんですね」

「まあ、盗まれた本人のアレフが許してるし、この子も反省してる様子なんだから、私たちが怒る理由も気力もないんですよね」

「なるほど。……色々と、苦労していることはわかりました」

「そうなんですよね……」


 ルアトの同調に疲れたようにレイシュが肩を落とす。それでも彼女がアレフという青年と共にいるということは、それだけ信頼しているのかもしれない。


「アンタたちも、この都市に観光しに来たの?」

「観光、とは少し違いますが認識としてはあっています。このアイクティエスは物流の要とされてきた街。歴史も深く、学ぶべきモノが多くあります。私たちは都市の歴史を学ぶという課題をこなすために、ここへ訪れました」

「課題? ってことはどこかの学生なの?」


 シャーミアも短い間だが学校に通っていたから知っている。この辺りの学生なら、フィールドワークなどで街にいてもおかしくはない。


「あ、いや俺たちは――」

「魔術学院エリフテレア。皆さま方はそちらからお越しになられたのですわよね?」


 確信めいた調子で、リリアがそう言い放った。その名前に聞き覚えがあったが、シャーミアの記憶からはすぐに掘り起こされないまま、アレフが驚いたように口を開いた。


「知っていらっしゃったんですね」

「もちろんですわ! エリフテレアと言えば魔術学問の最高峰と謳われる、魔術研究の最前線! 入ろうと思っても気軽に入れるような場所ではなくってよ!」


 ふんふんと興奮した様子で鼻息を鳴らしかのごとくそう話すリリアに、ようやくシャーミアもそれについて思い出す。


「あ、そういえば確かに、おじいちゃんも言ってた気がするわね」


 記憶ではその時は誰でも気軽に魔術を扱えるようにするための、門戸の広い学校だとか言っていたような気がするが、方針が変わったのだろうか。

 ともあれリリアの説明の通り、彼らが袖を通す学生服はどこか気品が漂っていて、暗めの色の服には優雅さを感じられる。しかし、どこか大人過ぎない、服の随所には余裕というか、遊び心のある装飾が施されてもいた。

 そうしてシャーミアがまじまじと学生服を眺めていると、不意にアレフが柏手を打った。


「そうだ。これも何かのご縁ですし、一緒に街を見て回りませんか?」

「え? いいの?」

「もちろんですよ! 寧ろ皆さんのようなお強い方がいらっしゃれば、安心して見て回れますから」


 シャーミアはルアトとリリアにそれぞれ視線を向ける。勇者が言っていた闇取引の邪魔をするのは夜だし、日中は観光ぐらいしても許されるのではないか。それが表情に出ていたのか、ルアトもリリアも小さく頷いて見せた。


「まあ、一緒にいればシャーミアも面倒ごとに巻き込まれないでしょうし」

(わたくし)も賛成ですわ。ぜひ、一緒に観光させてくださいませ」


 二人の言葉に、アレフたちは嬉しそうに頷く。そうと決まればこの街を見て回ろう。シャーミアは振り返って、話しに入れていない彼女に手を差し伸べる。


「じゃあ、道案内はお願いね。テトラ」

「え? な、なんでオレ――」

「だって、街に詳しいでしょ? あんなにあちこち逃げ回って、色んな場所知ってそうだし」


 そう笑ってみせるものの、彼女は言葉を失った様子だ。もしかして嫌だっただろうか。無理に付き合わせるのも申し訳ない。泳ぐテトラの視線を見つめて、それから差し伸べた手を引こうとした。


「――み、道案内ぐらいしかできないぞ!」


 けれど、それを阻むように、あるいは追い掛けるように、少し濡れた手のひらが、シャーミアの手を掴んだ。


「ふふ、よろしくね」


 すぐに彼女はやる気を見せた様子で一行の先頭に立って、道案内を開始した。それを微笑ましく眺めるシャーミアは、空を仰ぎポツリと呟く。


「――そういえばアイツ、何してるのかしら」

お読みいただきありがとうございました!


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