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魔王の娘  作者: 秋草
第2.5章 眠る星々と命脈のプリズム
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海運都市アイクティエス⑥

「やっとアイクティエスに来たって感じね。昨日はまともに見れなかったし」


 朝の気持ちいい陽射しが降り注ぐ中、大きく伸びをしながら、上機嫌な声を響かせる。立ち並ぶ石造りの建造物や歩道に潮の香りが漂うそこは紛れもなく海運都市。朝にも関わらず多くの人々が往来しており、それらが活気のある空間を演出していた。


「ふふ、この海運都市は歴史のある街ですのよ。古くから交易が盛んでして、内地から届く様々な商品を外の世界へと届ける役目を担っておりましたの。そして、それは今も変わりませんわ」

「随分と詳しいですね。歴史についての勉強を?」

「いえいえ! そこまでのことはしておりませんの。ただ(わたくし)、伝承などが好きでして。それのおかげで街の歴史などにも詳しくなったりしただけですのよ」


 街を歩きながら、同様に上機嫌なリリアが楽しそうに語る。そうしてはしゃぐ人たちも珍しくはない。水上での物流を支えるこの都市は、商人やそれを相手にしているような店ばかりではなく、物珍しいものが集まる観光都市としての役割もあった。

 英雄を称えるための寺院や救いを求める者が集う教会などはどこの街にもあるとして、魚市場やカフェ、酒場に土産物店といったこの街に訪れた者に向けた場所が至る箇所に点在している。


「ちょ、ちょっとこれ見てよ!」

「どうしました?」


 ルアトが呼ばれてシャーミアの方へと目を向けると、精緻な鳥の彫刻が軒先に飾られていた。


「確かに精巧に造られていますが、そんなに驚くほどでは……」

「甘いわね。これただのガラス細工じゃないのよ。なんと飴で造られてるらしいわ!」

「え!? 飴ってあの甘いヤツですか?」

「そうそう! 凄くない!?」


 彼女の背丈ほどのある飴の彫刻を見て大興奮の二人に、リリアが眩しそうにそれを眺めていると、不意に店の扉が開いた。


「おー、お客サン。イラッシャイ。ここは薬屋ヨ。薬いるネ?」

「へ、薬?」


 シャーミアが思わずそちらを見ると若い女性が笑顔で立っている。栗色の髪を後ろで束ねる彼女は、手元が隠れるほどの長い袖で何かを持っている。


「コレ。『天仙丸薬』言う。一舐めすればアラ不思議。みるみる力湧いてくるネ」

「それ飴じゃないの?」


 ガラス瓶に入っている赤透明な丸い玉は、シャーミアの眼からは飴玉に見える。丸薬という言葉も聞き覚えのないモノだ。


「丸薬、というモノは華ノ国に伝わる薬品の総称ですわ。(わたくし)も初めて見ましたけど」

「え、これ薬なの!?」


 どこからどう見ても甘くて美味しそうな飴にしか見えない。シャーミアの驚きように、店員は楽しそうに口元を袖で隠しながら笑う。


「可愛い反応するネ。我、海の向こうの大陸、華ノ国から来タ。烟雲(えんうん)言う。ここの店主してる、ヨロシク」


 片言な話し方だが、何故か聞き取りやすく、怪しさを抱くこともない。ともあれ、飴玉でなければ食べたいとも思わない。

 少しだけ落胆した調子で、やんわりと断りを入れる。


「飴じゃないなら、いらないわね。冷やかしみたいになっちゃって悪いけど」

「そうネ? 銀髪のオマエに黒髪のオマエ。これ一粒舐めれば恋人が伴侶に変わるヨ。オマエらにピタリネ」

「恋人じゃないわよ! あたしとルアトのどこが恋人に見えるわけ!?」

「まアまア落ち着くネ」

「アンタのせいなんだけど!?」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐシャーミアにルアトは呆れて溜息を吐いている。それを困り眉で見守るリリアだったが、活気ではないざわつきがその耳に飛び込んできた。


「おい! また出たぞ!」

「またかよ!」


 そんな叫び声に似た怒号が響く中、リリアは人混みを掻き分ける何かを見つけた。

 それは人にぶつかることもなく、泳ぐように人の波を駆け抜けて、こちらへと向かってきている。


「きゃっ――!?」

「悪いね!」


 戸惑う人々を縫うその正体は少年のようだった。彼はからかう店主と言い争っていたシャーミアにぶつかると、態勢を崩すことなく駆け抜けていった。


「いったあ……、ん――?」

「だ、大丈夫ですの!?」


 ぶつかられたシャーミアを見てもどこかケガをした様子はなさそうだ。そのことにリリアが安堵していると、少年がやって来た方角から息を切らした男女が数人現れた。


「あ、あの、ここ、男の子が走って行きませんでした?」

「え、ええ、先ほどここを通っていきましたわ。どうかされましたの?」


 戸惑うリリアに肩で息をする男、年齢はリリアと同い年ぐらいに見える彼が、疲れたように言葉を吐き出す。


「さ、財布を盗られたんです。それで追い掛けていたんですけど」


 既に駆けていった少年の姿は見えない。リリアは見覚えのある恰好をした狼狽するその男女四人に声を掛けようとしたその時、ルアトの声が鳴った。


「どうかしましたか、シャーミア」

「――ない」


 小首を傾げる一同。何がないのか、と誰かが問いかけるよりもその前に。

 シャーミアの悲痛な叫びがこだました。


「あたしの短剣がない!」

お読みいただきありがとうございました!


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していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

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