海運都市へ
「ぜひまたいらしてください。タウリ村は、いつでも皆さまを歓迎いたしますから」
「ああ、達者でな」
柔和な笑顔を見せる村長に別れを告げ、四人はタウリ村を後にする。ここから海運都市アイクティエスまで、それほど距離はない。山を下ればそこはもうアイクティエスの入口だ。
「改めまして、よろしくお願いしますわね!」
「こちらこそよろしくね。あ、そうそう。この旅って野宿とかあるけど、イヤだったらすぐに言ってね。あたしがシリウスに掛け合うから」
道中、楽しそうにそう話すシャーミアに、シリウスは呆れた様子で溜息を吐いた。
「お主な……、余たちは勇者に狙われておる身だ。そう気安く宿に泊まれると思うな」
「ええ? そんなのアンタの魔術があればどうとでもなるでしょ? 旅に付き合ってるんだから、それぐらいあってもいいじゃない。ねえ、リリア」
「魔力は無尽蔵に出るモノではないのだが……」
明るくはしゃぐ彼女と困惑するリリア。その光景に、けれどシリウスは怒ることはしない。寧ろ、彼女の表情が明るくなって、良かったとすら思える。
「シャーミア、あまりシリウス様を困らせないでください。シリウス様、僕はシリウス様がいらっしゃるところであればどこでも大丈夫ですよ」
「なに? ルアト、アンタ一人だけ良い人アピールってわけ?」
「アピールじゃありませんよ。君と違って、僕は根っからの良い人ですから」
「ふうん、言うじゃない。何ならここでアンタを永眠させてやってもいいんだけど?」
「奇遇ですね。僕もそう思っていました」
歩きながら互いに睨み合う二人に、最早呆れることもない。すっかり見慣れてしまった諍いをかと言って放っておくこともできないので、頃合いを見て止めに入るのがいつものシリウスのパターンだった。
そして今回もそうなるだろう。
「二人とも、そろそろ止め――」
「け、喧嘩はよくありませんわ!!」
シリウスの制止の声を遮って、言い争う二人の間にリリアが割り込んだ。予想もしていなかったのか、シャーミアもルアトも驚いたように口をぽかんと開いて、間に入った彼女を見ている。
「お二人とも仲が良いのは結構なことですけど、傷つけ合うのはダメですのよ!!」
「別に仲良くないわよ!?」
さぞ不服な表情を見せるシャーミアとルアトだが、リリアは頬を膨らませて交互に二人に視線をやった。
「とにかく、冗談でも言っていいことと悪いことがありますの! ほら、お二人とも謝りましょう!」
「いや、僕は――」
ルアトが何か抗議の声を上げようとしたが、ジトリとリリアに睨まれて観念したのか、頭を搔きながらそれに従う。
「……すみません、シャーミア。冗談が過ぎました」
「え? あ、あたしもちょっと、口が悪かったわ……」
信じられない言葉を聞いたかのように、シャーミアは目を丸くさせたが、すぐにそれに順応して合わせたようだった。
「おお……」
結果はどうあれ、まさか二人がこんな形でいがみ合いを止めるとは思わなかった。シリウスはそのことに感心して、リリアにお礼を告げる。
「宥めてくれて助かった。礼を言う」
「当然ですわ! 寧ろ私、出しゃばってしまっていたなら言ってくださいまし」
「出しゃばってなどおらぬ。余が言っても此奴らは聞かぬのだ。これからはリリアに仲裁に入ってもらおう」
「お任せくださいな!」
ふんふんと鼻息を鳴らして、瞳をキラキラと輝かせる姿に和みつつ、対する二人は苦い笑いを浮かべている。リリアがいてくれれば二人が喧嘩することもきっとないだろう。思いがけない展開に今後の旅への不安が一つ消え、ほっと息を吐いた。
「お主、やはり善いヤツだな!」
そうして場が収まったところへ響いたのは、また騒ぎの一因となりそうな声。その主はひょこっとシャーミアの肩から顔を覗かせて、満足そうな顔を浮かべていた。
それを見たリリアは一瞬固まって、シリウスの姿とを交互に見比べる。
「え? あの、こちらの方は……?」
「其奴は余の分体。まあ、余の一部だと思ってもらってもよい。名はヌイ。ああやって、シャーミアの傍に遣わせておる」
その紹介に笑顔で頷いて、ヌイがふわりとその身を浮かせた。
「うむ! よろしく頼むぞ、リリア!」
「か――」
「か?」
「可愛いですわ!!」
「ちょっ、うぶっ――!?」
声と共に飛び掛かってきた彼女を即座に回避しようとしたヌイだったが、その身はまんまとリリアによって抱き抱えられてしまった。
「シリウス様もお可愛いですが、それとはまた違った可愛さがヌイ様にはありますわ!」
「リリアさんにもわかりますか、シリウス様の尊さが」
うんうんとルアトが腕を組んで頷いている。それを聞いているのか聞いていないのか、リリアはヌイを丁重に抱いて、けれど力強くその身に寄せている。
「おい! この本体バカたちをどうにかしろ!」
「あはは……」
必死の訴えにシャーミアは困ったように笑うしかできない。すぐ調子に乗るヌイにはこれぐらいの扱いが丁度いいだろう。シリウスも特に助けるようなことはせず、リリアの気の済むようにさせることにする。
「余が間違っておった! お主、全然善いヤツではないな!?」
そんな軽やかな絶叫が、晴れ空に響き渡り、四人と一体の旅は賑やかに過ぎていくのだった。
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