表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘  作者: 秋草
第2.5章 眠る星々と命脈のプリズム
177/262

リリア③

 松明の灯りが闇を払う中、黒髪の青年とケイナズとが対峙する。倒れ伏せながら、その光景を眺めるリリアは、自身を庇ったその青年を知っていた。


「ルアト様……、どうして――」


 シリウス含め、彼らは先にこの村を出立していたはず。それなのに何故いま、ここにいるのか。回らない頭に数多くの疑問符が並ぶ。

 それを、ルアトは優しく見つめ、そっと彼女を抱き抱える。


「すみません、リリアさん。来るのが遅くなってしまいました。……すぐに傷の手当を――」

「もんだい……、ありませんわ」


 息も絶え絶えだが、彼女が瞼を閉じるとリリアの体を緑色の光が包み込む。その輝きはすぐに彼女の傷を癒し、欠損した腕すらも元に治した。


(わたくし)、回復魔術なら誰にも負けない自信がありますの」

「――これは、驚きましたね」


 リリアを抱くルアトの眼が見開かれ、その光景に息を呑んでいた。気味悪がられてしまうだろうか。だが今はそれを気にしている場合ではない。

 こうしている間にも、墓荒らしは行われ続けているのだ。それを早く止めなければ。


「な、なんだお前――、ぐあああっ!?」


 と、少し先の闇の中、驚嘆と同時に悲鳴が響いた。


「なに? アンタたち、見た目の割に情けない声出すのね」


 その声に、思わず視線を向けると、美しい銀色の髪を持つ少女が、スコップを持った男を地面に寝かせていた。


「シャーミア様まで……、どうして……」

「余は、人間が好きだ」


 その呟かれた疑問に対して、すぐ隣から凛とした鈴の音のような声が鳴った。見れば、紅蓮の髪を伸ばす少女が、蒼い瞳を瞬かせて立っている。


「だが、人間にも様々な種が存在する。心優しい者も、調和を重んじる者も、そして、それらを虐げる者もな。そういった輩には、言葉よりも実力でわからせる必要があるだろう。故に、余たちが正す。二度と、このような蛮行に及べぬようにな」


 本当は、目立つべきではないのだがな、と。そう締め括った彼女は、ルアトに視線を向けた。


「というわけだ。リリアと村長は余が預かる。ルアト、お主は――」


 小さく細い指を、睨むケイナズに向けて、淡々と告げる。


「彼奴に灸を据えてやれ」

「任せてください。二度とシリウス様の前に映らないよう、心まで砕きましょう」


 言うが早いか、リリアの全身を浮遊感が包む。それはシリウスの魔術によるものだと、すぐに理解できた。


 ――暖かい、ですわね。


 身を包むその魔力は、暖かく、陽だまりのよう。眠りたくなるほどの心地良さを覚えてしまうが、すぐに意識を覚醒させて目の前のルアトに忠告する。


「ルアト様! お一人では危険ですわ! その方は不思議な斬撃を放ちますの! いったん距離を置いた方がいいですわよ!」

「……ご忠告ありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。先ほども斬撃を貰いましたが、僕の脅威には到底なりませんでしたから」


 そう言って振り返り笑う彼を、リリアは不安な瞳で見つめる。確かに先ほど、リリアの喉元目掛けて振るわれた斬撃はどこかへと消えていた。それをルアトが受けて、なおかつ傷らしい傷も負っていないのであれば、確かにこの不安は杞憂だろう。

 だが理屈ではない。

 戦う者を安心して送り出せるほど、まだリリアの心は成熟していない。


「案ずるな、リリア。ルアトは強い。あの程度の相手であれば、労なく勝てるだろう」

「……シリウス様」

「未だお主と余たちとの間に、明確な繋がりはない。何しろ出会ったばかりなのだからな。信じろと、そう言われても難しいだろう。だが――」


 座り込むリリアに、シリウスの視線が注がれる。

 その瞳は綺麗で。

 一つの濁りもない、透き通った蒼だった。


「その眼で見ておいてほしい。彼奴がどういう存在なのか。余たちが、何者なのか。お主自身で、見極めるがよい」

(わたくし)、自身で……」


 窮地を救ってくれた、シリウスたちには感謝している。だが、彼女たちにも打算があるのではないか。無償で人を助けたのだろうか。ひと段落したら、法外な金額を請求される可能性もある。

 そう思考するものの、しかしすぐに首を横に振った。

 見なくたってわかる。

 これまでの彼らの言動、想い、それらに触れて、そんな浅い考えが浮かぶこと自体が間違っているだろう。


 人の悪意は、小さい頃から見てきた。

 だからこそわかる。

 彼、彼女たちは――


「それならもう、わかりきってますのよ」


 信用するのではない。

 信頼していたい。

 シリウスもシャーミアもルアトも、全員が彼女にとっての、希望の光となりえると。

 そう、リリアは答えを出す。そうして改めて目の前の光景へと、目を向けることにするのだった。

お読みいただきありがとうございます!


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ