表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘  作者: 秋草
第2.5章 眠る星々と命脈のプリズム
172/262

タウリ村

「これって……、お墓?」


 陽が傾き始め、柔らかい陽射しが徐々にその勢いを落としていく。時折吹く風に揺れる花々に囲まれて、物言わぬ無数の石は鎮座していた。

 その数は優に百を超える。花畑一面に墓が並ぶ光景は、いやでも厳かな空気を作り出し、シリウスたちもまたその場の空気に吞まれつつあった。


「おや、お客様ですかな」


 爽やかな天気ながら、広がる重い雰囲気の中、それを払拭する年老いた声が一つ。

 杖を突いた老翁が、皺だらけの穏やかな顔つきで出迎えてくれた。


「ようこそ起こしくださいました。ここタウリ村は辺鄙な場所ですが、どうぞごゆっくりしていってください。わたしは村長のメンカルと申します」

「歓迎感謝する。余はシリウス。そして銀髪の少女がシャーミア、黒髪の青年がルアトで、空色の髪の少女はリリアだ」

「これはこれはご丁寧にどうも。若者には退屈な場所でしょうに、何故こんなところまで?」


 その村長の疑問も当然だ。シリウスを除けばここにやってきた面子の全員が若く、歴史になど興味もないような見た目をしている。

 しかしここへと訪れたのには理由がある。その一つをシリウスは、淡々と伝えた。


「始まりの勇者が振るったと言われておる伝説の剣。それがこの村にあると聞いてな。余はそれを見に来たのだ」

「伝説の剣? なによそれ」


 シャーミアが不思議そうにそう尋ねる。それに対して答えてくれたのは村長だった。

 彼はその瞳を僅かに寂しそうに彩って、それからゆっくりと踵を返す。


「……そういうことでしたら、こちらへ。その場所へとご案内いたしましょう」



「伝説の剣とは、かつてこの村から生まれた最初の勇者が使用していたと言われている、一振りの剣のことです」


 花畑を歩みながら、老翁が先ほどのシャーミアの疑問に対して答える。その声は落ち着いていて、春に落ちる陽だまりを想起させた。


「勇者の冒険譚の始まりであり、終わりを迎えたのがこの村でして。初代魔王を討った後、持ち帰ったその剣を、昔の村の人々は伝説の剣と讃えて平和の象徴とすることとしたのです」

「ふーん……、それって何年前の話なの?」


 対して興味もなさそうな反応をするシャーミア。対して、それに嬉しそうに応じたのはリリアだった。


「初代魔王が討たれたのは約九百年前のことですのよ」

「九百年前!? そんなの、もう剣の形なんて残ってないんじゃないの?」


 驚嘆を示す彼女に、落ち着いた声が返ってくる。


「それが、そうでもないのですよ。伝説の剣は、ある封印を施されました。経年による劣化を防ぐための封印魔術です。これによって未だに剣は、村の外れで眠っています」


 未だ花畑は続いている。しかし周りの風景は次第に映り変わり、岩や木が目立つようになってくる。


「着きましたよ。これが、伝説の剣です」


 そこは墓石が並んでいた場所から離れた、ひと際静かな空間だった。周囲を取り囲むように岩や木が点在し、人工的な石段が数段、設けられている。

 そしてそれを登った先。円形となっているその中心に、一本の剣があった。


「これが……、伝説の剣?」

「失礼ですが、とてもそうは……」


 シャーミアとルアトが困惑したような声を絞り出した。そう思う気持ちも理解できる。目の前にあるのはボロボロの剣。しかもそれは石のような材質で風化しており、深々と台座に突き刺さっているのだから。


「これが伝説の剣ですのね! (わたくし)、実物を見れて感動ですわ!」

「いや、伝説の剣なのこれ? あんまり伝説って感じしないんだけど……」

「何を仰るんですのシャーミア様! 歴史そのものが目の前にあるんですから、もっと喜んでくださいまし!」

「そんなこと言われても……」


 興奮するリリアとは対照的に冷めている様子のシャーミアは、微妙に乗り切れない旨の返答をすることしかできない。

 それを横目で見ながら、シリウスは一歩前へと歩み出る。


「触ってもよいか?」

「もちろんです」


 二つ返事で承諾を得て、その突き刺さる剣に近づいていく。近くで見れば見るほど普通の剣だ。魔力も感じないし、特別な力に溢れているといった感じでもなさそうだった。

 そうしてそっと、シリウスはその剣の柄に手を差し出す。僅かな力も籠めずに、指と石とが触れ合った。


「……これは――」


 シリウスが何かを告げようとした、その前に。

 騒々しい声と気配が、その場に訪れた。


「おい爺さん! 探したぜ! 今日こそ魔道具の在り処を吐いてもらうぞ」


 神聖な雰囲気に到底そぐわない、荒々しい集団がその空間に足を踏み入れる。視線を向ければ武器を携行した男たちが、下卑た笑みを浮かべて並んでいた。

 その中心にいる殊更に人相の悪い黒い眼鏡を掛けた金髪の男は、ポケットに手を突っ込んでこちらを見下す。


「……魔道具なぞありません。ここにあるのは伝説の剣だけですから」

「しらばっくれるんじゃねえよ。この土地の記録によれば、かつての勇者たちが使用した、数々の魔道具が眠ってるそうじゃねえか。爺さん、あんたが知らねえで誰が知ってるってんだ」

「だからわたしは何も――」


 直後。

 乱立する木の一本が、音を立てて炎上。

 勢いよく燃え盛る火は、一瞬でその木を燃やし尽くした。


「あんま俺を怒らせるんじゃねえぞ。一応俺も学院に属する人間だからな。こんな観光客がいる前では事を荒立てるつもりはねえ」


 そう言って、シリウスたちを一瞥していく。どうやらシリウスの追っ手ではないようだったが、しかし明確な害意は漂わせている。余計なことをする者には容赦はしない。言外にそう言っているようだった。


「また明日も来るからよお。それまでにちゃんと、俺たちが喜ぶような答えを用意しておくんだな」


 そう言って火の粉と花弁が舞う中、彼らは立ち去って行った。

お読みいただきありがとうございます!


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ