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魔王の娘  作者: 秋草
第2章 過日超克のディクアグラム
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討伐祭・閉幕 後編

「あの時、大広場でイデルガに向かって言っていたじゃないですか。この国を背負えるのは俺しかいねえ、と」

「あ、あれは――」


 その場の勢いというか、イデルガへの宣戦布告の意味合いもあったわけだが、まったくなかったと言えば嘘になる。だが、自分の意思と住民たちの総意とは違う。どれだけ自身が王になりたかったとしても、住民が認めなければ王にはなれない。

 少なくとも、自分本意では王にはなりたくなかった。


「私は合っていると思いますよ」

「……そんなわけねえよ。俺なんて頼りなくて、人を引っ張る力もねえ」

「――そうですね。武力らしい武力は、並程度で求心力があるかと言われればお父君と比べるとそれもないでしょうね」

「なら――」

「ですが、あなたには行動力があるでしょう。諦めない力が、あるはずです。処刑される寸前にもかかわらず、巨悪に立ち向かってみせた。自分よりも遥かに大きな魔獣に立ち向かってみせた。聞くところによれば、街を巡り避難が進んでいない地域の手助けもしていたらしいじゃないですか」

「……そんなの、やって当然だろ」


 なにも誇るべきものじゃない。できて当たり前。辿って然るべき道。こんなことを取り上げられても、王に向いているとは思えない。


「――自分が信じる道を、迷いなく進んでいく。間違っていてもいい。違う道なら引き返せばいい。引き返せないなら別の道を歩めばいい。先陣を切るその者がいるから道はでき、人が行き交う要所が作られ、そして街となるんです。街はやがて、政治を覚えそして国となるでしょう」


 彼の声は澄んだ空気によく渡る。耳に、脳に、そして心に、強く響く。


「王とは、力ある者でも、求心力がある者でもありません。道を作る者こそが、王としての資質を持つんです」

「――――」


 胸が苦しい。呼吸は上手くできているはずなのに、自分の存在自体が覚束ないような、そんな感覚に襲われる。

 認めてほしかったわけではない。誰が王になっても、きっとこの国はうまくいくだろう。そう思っていた。


「私は、誰よりもこの国の未来を想い、そして上層と下層を繋ごうとするあなたこそが、王に相応しいと、そう思いますよ」


 ぱちん、と。そんな軽快な音が鳴った。

 それを認識した時には、既に耳には様々な音が飛び込んできていた。


『――俺もミスティージャ王子が王になればいいと思う! 虫のいい話かもしんねえけどな!』『――誰よりも民の心配をしていたのは王子でした。私たちも王子と一緒に、この国を造っていきたいです!』『――魔獣と戦ってた姿、かっこよかった!』『――ミスティージャ王子が、この国の王なら安心ね』


 様々な、うるさすぎるほどに雑多な声が、青空に響く。この魔道具は一方的にこちらだけの声を届けるためのものなはずだ。

 しかし今届いているのは、恐らく避難所から贈られたモノ。今なお降り注ぐ陽光のような声は、確かにミスティージャの耳に残り続けていた。


「シリウス、アンタの仕業ね」

「声を伝播させておった回路を弄った結果だ。余もここまでになるとは思っておらぬ」

「……ウソばっかり」


 シャーミアが笑いながら、そう言った。


 ――ありがとう、シリウスさん。本当に、感謝してもしきれねえ……。


 ここまでお膳立てしてもらって。

 これだけの声を聞いて。想ってくれる人がたくさんいて。

 それから、前を向けるきっかけまでできて。

 本当に、幸せ者だ。


『俺は――、絶対にこの街を復興させる! これまでの国よりも、もっとずっと住みやすくする! それが、俺の贖罪だ』


 全身に力が籠る。心が震えて、嗚咽が漏れる。青空が滲むけど、でもしっかりと前は向き続ける。


『――だから、みんな! 力を貸してくれ! 不甲斐ねえかもしれねえ! がっかりさせるかもしれねえ! 不満や不平が出るかもしれねえ! そんな時は、遠慮なく言ってくれ!』


 伝える言葉が震えてしまう。なんとかその震えを止めようとするけど、上手くいかない。こんなみっともない姿を晒すわけにはいかないのに、これからこの国を率いる人間として、毅然としていないといけないのに。

 温かい涙が、どうしようも止められない。

 だから、もうこれ以上の醜態を晒さないように、一息に言い切ろう。


『……王として頼りねえだろうけど、これからよろしく頼む!!』


 その言葉に間髪入れず、歓声と拍手が上がった。

 そして取り戻された青空には、新たな王の誕生を祝うように。

 虹が天空を、架けていたのだった。




 街は破壊の爪痕を生々しく残している。旗や出店の残骸といった祭りの名残が痛ましく横たわり、今日の騒動を物語っていた。

 だが、雨は止んだ。

 陰鬱としていた空気はからりと乾き、水たまりに太陽が反射している。

 下層と上層の壁は、きっとこれから取り払われるだろう。魔獣の被害はなくなり、街を取り囲む険しい城壁は無用の長物として解体されるはずだ。

 破壊の雨が過ぎ去ったその大都市ディアフルンに響くのは、この国の再誕を祝うファンファーレ。

 新たなる王が誕生したことを喜ぶように、春の息吹きが満ち満ちて。

 魔獣と人間たちと共に、未来へと向かうその国は後に。


【人魔同盟国サンロキア】と、そう呼ばれることになる。

お読みいただきありがとうございます!


これにて第二章完結です!!


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

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