討伐祭⑬
「シャーミアさん! これはいったい……」
水色の髪を揺らしながらこちらへと駆け寄ってくるその女性を見て、シャーミアはほっと一息ついた。
「よかった。ダクエルさんが無事で。これはまあ、喧嘩の後?」
「いや、全然良くないんだが。突然魔獣たちが大人しくなったと思ったら、街では暴れている魔獣もいるじゃないか。そもそも、喧嘩してる場合じゃないだろう。いったい、何がどうなってるんだ?」
「それは多分……」
シリウスの仕業だと伝えようとしたが、それは背後で鳴り響く咆哮に搔き消された。
「スキラス……!」
「あの魔獣のこと、知ってるの?」
ダクエルが苦虫を嚙み潰したような、あるいは怒りを隠しもしない表情を浮かべながらその光景を見つめる。
「……ああ。知っている。だからこそ、止めなければならない。そのために、ここに来たんだ」
彼女はすぐさま振り返って、連れてきた男たちに視線と、大音声の言葉を贈る。
「『ハウンド』総出で、ミスティ王子を助ける! 異論はあるか!?」
今にも駆け出して行ってしまいそうな、ダクエルのその問いかけに果たして意味はあったのだろうか。
その場にいる全員が笑いながら首を振って、その内の一人が彼女の意志に応える。
「あの人と、あんたのためなら俺たちはどこまでもついていくって決めてますから」
「……そうか。では――」
大広場の処刑台があった場所近く。今もそこではミスティージャが騎士たち相手に戦闘を繰り広げている。
その光景を見ながら、ダクエルは叫んだ。
「行動開始といくぞ! 目標は、ミスティ王子と白銀の魔獣の手助けだ!」
「おう!」
その号砲と共に、全員がミスティージャの元へと駆け出して行ってしまった。あっという間に寂しくなった空間で、シャーミアも加勢に向かうべく歩き出そうとした。
「待つんじゃ、シャーミア」
「ファルファーレ?」
彼女の耳元で聞き慣れた青年の声が響いた気がしたが、辺りを見渡すもそれらしい姿は見つからない。
精々が先ほど戦っていた冒険者もしくは傭兵たちがいるぐらいだ。
と、目の前に一羽の小鳥が羽ばたいてきた。
その小鳥は必死に翼を動かしながら、パクパクと嘴を動かした。
「ここじゃ。今オレはこの鳥を介して喋っている」
「え? この小鳥がファルファーレなの?」
「いや、オレは別の場所にいてな。遠隔で会話していると思ってくれ。――と、まあそんなことはどうだっていいんじゃ」
可愛らしい見た目からは想像できない男性声に、思わず目を白黒させるシャーミア。彼はそのことを気にも留める様子も見せず、口早に話を続ける。
「……お前さん、確か『メサティフ』の副騎士団長と懇意にしていたじゃろう」
「ルシアンさんのこと? 別に特別仲良くしてたわけじゃないんだけど」
「まあ仲が良いかどうかはさておいて、世話にはなったんじゃろう?」
ルシアンは追われていたシャーミアを匿ってくれた。それにその間の食事や寝る場所も提供してくれた。
彼女のおかげで、今こうしてこの場に立っていられる。
そこでの恩を忘れるわけがない。
「……そうね。ルシアンさんには、色々助けてもらったわ」
嘘偽りのないその言葉に小鳥が頷いた、ように見えた。彼は僅かに声音を落として、忙しくその羽を動かす。
「そうじゃの。なら、急いだ方がいい」
「なによ。というか、なんで今ルシアンの話をしてるの?」
この状況とルシアンに関連性はない。ルシアンはこの都市の副騎士団長として、この魔獣騒動を治めるために尽力していることだろう。
とは言え、僅かに滲む嫌な予感。この感覚が間違いであってほしいと願いながら、シャーミアはファルファーレの慎重に紡がれる答えを聴く。
「その恩人がいま、危機に瀕している」
「――っ! 場所は!?」
嫌な予感が的中してしまった。即座にルシアンを助けに行くため、向かうべき方角を求める。
「案内する。こっちじゃ、ついてこい」
ファルファーレがその声を連れて飛んでいく。シャーミアもそれに続こうと足を踏み出そうとして、振り返った。
視線を先ほど戦っていた冒険者たちに注ぐ。
「アンタたち、早くそいつらの手当てしてあげた方がいいわよ」
生傷に崩れる冒険者たちを指差してそう告げた彼女は、今度こそ飛んで行ったファルファーレの後を追い掛ける。
自分の手で傷つけた相手だ。本当は、自分が手当てをするべきなのだろう。
だが、今はその時間すら惜しい。
迷うわけにはいかない。
シャーミアは自らの意志でその背を押して、さらに足に力を込めてルシアンの元へと向かうのだった。
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