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魔王の娘  作者: 秋草
第2章 過日超克のディクアグラム
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討伐祭⑨

「アンタ、無茶しすぎよ。死にたいわけ?」


 聞き覚えのある声に、ハッと目を開く。

 銀髪を左側でまとめた、紅い瞳を瞬かせる少女。彼女は呆れたように顔を顰めて、ミスティージャと斧を持つ男との間に佇んでいた。


「まあ、あたしでもそうしたと思うけど」

「シャーミアさん!」


 苦渋に歪んでいた顔に思わず笑みが綻んだ。シリウスから彼女たちが街へと来ていたことは、軽く聞かされていた。まさかここでこうして再会できるとは思ってもみなかったが。


「おい小娘! お前、何しやがった!?」


 シャーミアの背後で、斧を掲げたまま動きを止めている男が叫ぶ。今にも振り降ろされそうなその武器は、しかし不自然な状態でピタリと静止しており、それを手にしている彼も彼で身じろぎ一つしない。


「……アンタに教える義理なんて、ないと思うけど」


 シャーミアはそう言って、手に持った短剣で男の背後に回り込み、素早くその手を振るった。


「ぐっ――!?」


 男の表情が苦悶に歪んだかと思えば、前のめりに地面へと倒れこんだ。その足元を見ると、脚の腱辺りから鮮血が流れ落ちているのが見て取れる。あの足の傷では、しばらく動けないだろう。


「――悪いけど、アンタたちに構ってる暇ないの」

「なんでだよ! お前も俺たちと同じ、魔獣を殺すためにここに残ってた冒険者なんじゃねえのか!?」


 その手に黒い短剣を持ち直したシャーミアは、倒れ伏したまま叫ぶ男に視線を向ける。見せるその面持ちは嫌悪しているような、言葉自体が気に入らないような、複雑ながら負の感情に染まっている。


「あたしにとって、魔獣がどうとかって関係ないから。ここに残ってたのはさっきまでいた観衆たちを避難させてたからよ。――それに」


 シャーミアの双眸が男から逸らされて、とある方角へと注がれる。それは城の方にも見えたし、そのさらに先を見ているような気もした。


「あたしが殺したいのは、たった一人だけ。アンタたちみたいに進んで魔獣を殺したいなんて、思ったことないわ」


 すでに興味を失ったかのように、シャーミアはそれで会話を打ち切り、ミスティージャへと手を伸ばす。

 向けられたその綺麗で細い手を掴み、立ち上がった彼は礼を言って改めて周囲をぐるりと見渡した。


「……これからどうするつもりなんだ? 俺とシャーミアさんだけじゃ、さすがに全員相手にできねえ」


 斧を振ろうとした男とのやり取りを静観していた傭兵や冒険者たちが、まだまだ周りに控えている。それに、今も白銀の魔獣と騎士たちは交戦しており、それらとも戦わないとなると骨が折れる。

 そう不安を口にしたミスティージャに、シャーミアは視線を白銀の魔獣へと向けた。


「あいつ……、銀色の魔獣はアンタの家族、なのよね?」

「……ああ。俺の、大切な家族だ」


 その彼女の確認に、上手く返答できたかは怪しい。上擦っていた気もするが、心臓の鼓動は異様に早鳴っていたのは間違いなかった。


「そう」


 シャーミアはそれを受けて何を想ったのか。白銀の魔獣からミスティージャ、そして周囲にいる魔獣狩りをするために残った冒険者たちへ瞳を向けていく。


「なら、アンタがちゃんと守った方がいいと思う。……そうしないと、アンタはきっと後で後悔するから。――二手に別れましょ。あたしがあいつらの相手をするから、ミスティージャは騎士たちを足止めして」

「は? シャーミアさん、一人であの数と戦うってのか?」

「大丈夫よ。終わったらそっち手伝いに行くから」


 そういう問題ではない。ここを訪れる傭兵や冒険者は皆魔獣討伐のために訪れる。そこで名声や力を高めて実績を作り、他国に自分を売り込む材料とするのだ。

 そして、彼らがわざわざここに残ってまで魔獣討伐をしようと思ったということは、それなりに腕に自信があってのこと。

 わざわざ戦力を分ける必要もないはずだが、背を向ける彼女からは不安や後悔は感じられない。シャーミアは首を捻って、ミスティージャを見据える。


「アンタは、どうしたいの?」


 その問いかけに、何故かシリウスの言葉を思い出す。


『――余はお主の選択を、尊重する』


 そんな声が、リフレインされて思考が澄んでいく。

 そうだ。シリウスは戦うための力をくれた。今さら、迷っている暇などないだろう。

 選択することに、後悔はしたくない。

 ミスティージャはその手に握る剣へと力を込めて、言葉に乗せる。


「俺は、家族を守る。守りてえ。俺が、俺がそばにいてやんねえといけねえんだ。だからシャーミアさん、悪いけど力を貸してくれ」

「元からそのつもりよ。……できるだけ、援護できたらしに行くけど――」

「……分かってる。さっきみたいに、死に急ぐことはしねえから」


 せっかく色々な人たちに命を救われたのに、それを捨てるわけにはいかない。まっすぐとシャーミアへとその目を向けると、彼女はふっと笑い視線を外した。


「それじゃ、絶対死なないようにしないとね」

「ああ。シャーミアさんもな!」


 そう言葉を交わすと、お互いに別方向へと飛び出していく。

 シャーミアは冒険者たちが待ち受けるその先へと。

 そしてミスティージャは、大切な存在を失わないため。

 その足を、一歩踏み出した。

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