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魔王の娘  作者: 秋草
第2章 過日超克のディクアグラム
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ハウンドの長、ダクエル⑦

「シリウスさん!?」

「あの魔王の娘だと!? 何がどうなっている!?」


 響く音に、混乱する空気。ただスキラスという魔獣だけが、その体を震わせた。


『――余の目的はただ一つ。この国にいる、『影の勇者』イデルガを討伐することだ。サンロキアを悩ませておる魔獣を創り出しておる、張本人とも言い換えられるか』


 彼女の声は、とてもノイズ交じりとは思えないほどに、整っていて美しい。思わず聞き入ってしまうほどだが、その間もダクエルは魔獣とラベレから目を離さない。


『――お主の言う通りだ。だからこれは告発でもなんでもない』

「……ふん。所詮囚われの身。いかに魔王の娘と言えども、イデルガ様の前で無茶をする気力もないようだ」


 ラベレは早々に彼女の声から意識を外し、傍らに控えるスキラスを撫でる。その瞳は、厄介なことに未だ折れていない。


「イレギュラーが重なってしまったが、どの道お前は助からん! このスキラスの糧となれ!」

「……ミスティ王子のご家族を傷つけたくはなかったが――」


 ダクエルは足に力を込めてすぐにその距離を詰める。

 あの巨体だ、素早い動きには対応されないだろう。魔獣に肉薄した彼女はそのままの勢いで手にした剣を振るった。

 が――


「……っ」


 薙いだ剣は固い音を響かせてはじき返されてしまった。鱗が想定以上に固い。


『――聞いておるか! 魔獣たちよ!』


 シリウスの声が響く。その最中も、スキラスは尾を振るい、その鋭い爪でダクエルの体を引き裂こうと狙う。

 直撃の回避にこそ成功したものの、その爪が左腕を掠めた。

 痛みと熱が、滴る血と共に溢れ出る。


『――イデルガに創られた憐れな魔獣よ。魔獣生成の実験として攫われ、獣となった罪なき人間たちよ。不当な境遇を嘆く暇はもうない。今こそ、反旗を翻す時だ』


 双頭が、再びその口を開く。光線を放つための魔力が膨れ上がり、ダクエルは警戒のために距離を取ろうとした。


「今だ! 出来損ないども!」

「――っ!?」


 何かが足を掴んだ。下を見れば、地面から生えた骨の手がダクエルの足首を掴んでいた。

 それほど力が籠っていないが、動くには邪魔だ。すぐさま剣を突き刺し、その手は彼女の拘束を解く。

 しかし――


「くっ――!?」


 続く他の魔獣たちが、その身を呈してダクエルの動きを封じようと現れる。

 数が多い。一本の剣だけでは、全てを対処しきれない。

 その間にも、眩い魔力の集束が進んでいた。


「さあ! もう終わりだ! ダクエル!」

『――……我に返れ。そして――』


 まだだ。剣を振れ。動きを止めるな。醜く足掻け。少しでも光線の直撃を避ければ、死にはしない。

 そんな想いとは裏腹に、現実は無情にもかけ離れていく。

 魔獣の手がその身を掴み、剣すら振るえない。当然、避けることは、不可能。


 ――こんなところで……!


 想いがどれだけ強く、眩くても。

 力の前には無力だった。

 そして。

 魔獣の口から、ダクエル目掛けて光線が放たれる――


『――決起せよ(オーラバエラ)


 だが、最悪の結果はいつまで経っても訪れない。

 口を開いたスキラスは魔力の集束を止めて、やがて口を閉じた。


「な――っ!? 何をしている!? せっかくの、チャンスだったんだぞ!」


 しかし、スキラスはラベレのその声に応えない。そして確かに、ダクエルはその白い瞳に浮かぶ、涙を見た。


「ぶおおおおおおおおおォォォォォォ――――――!!」


 声とも呼べない鳴き声を上げて、その尾や腕を振り回し始めた。


「なっ! 止めろ! 暴れるんじゃない!?」


 無作為に振るわれる暴力、ではなかった。明確に、ダクエルへの攻撃は避けていたようで、壊れるのは周囲にある実験器具や書類ばかり。

 そして、いつの間にかダクエルの拘束も解けていた。


「……まさか――」


 彼女を拘束していた魔獣たちは、皆一様に膝を折り、抵抗の意志を見せていない。まるで人間がするような所作に、人の姿が重なる。

 当惑と混乱で思考が成り立たない。ただその中にあっても、一つの推測がまるで明るく灯る火のように、ダクエルの脳裏に浮かんだ。


 それは、一人の少女の存在。

 先ほどシリウスが放った言葉を聞いてから、魔獣たちの動きがあからさまに変わったような気がする。

 偶然か、はたまた彼女が何かしたのだろうか。


「……だが、それを確認するのは、また後でだな」


 これでラベレを守るものはいなくなった。

 暴れるスキラスから必死に逃れている彼を捕らえようと、その身を前進させる。


「ちっ――! 止まらんか! この出来損ないがあ!」


 しかし、ダクエルの思惑は虚しくも叶わない。

 彼が懐から取り出した注射器具が、スキラスの肌に突き刺さった。


「何をしている!」

「……本当はこの薬は使いたくなかったがな――」


 スキラスの動きが止まった。

 と、そう認識した直後――


「うがあああああああああああァァァァァァ――――――!!!!」


 耳をつんざくほどの咆哮が、部屋全体を揺るがせる。そして、またもその巨体をのたうちながら、スキラスは翼を広げた。


「おいスキラス!? どこへ行くんだ!?」


 どうやら、ラベレですらも制御不能なようだった。飛び上がっていくスキラスの足首に彼は捕まり、距離を開かれてしまう。


「……っ!? 馬鹿な……。地盤で固められた天井なはずだが……」


 スキラスはそんなことも構わない様子で、光線を当てて腕を振るい、天井に穴を開けて飛び立っていく。


「目的は地上だろうか……? マズいな。あれが外に出ると、街は大混乱に陥ってしまう」


 それに、飛び去って行くダクエルと逃走するラベレを逃がすわけにはいかない。

 ダクエルもまた彼らを追い掛けるべく、地上へと向かうのだった。

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