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魔王の娘  作者: 秋草
第2章 過日超克のディクアグラム
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討伐祭③

「ふふふ……! 魔獣の正体を暴いた時の、あの男の顔を見たか!? 実に愉快だな!」

「あれで反省してくれたら、悪事を暴いた甲斐があるんだけど」

「まあ、一度や二度の失敗で挫けそうではなかったな、あれは」

「そうよね」


 ヌイの言葉に、シャーミアは溜息を吐く。先ほど、様々な催しをしている区画を通りがかった際に、ひと際多くの見物客を集めている催しを見かけた。

 貴重な宝石を景品に掲げて、金貨一枚で魔獣に一撃を見舞うという趣旨のイベントだ。それだけならば何も文句はなかったが、ヌイが言うにはその宝石は偽物らしい。おまけに対象の魔獣も中に人間が入っていると言う。

 別にシャーミアには悪を懲らしめるという大義はない。素通りしても良かったのだが、ヌイに唆されたのもあって、無事その悪事を暴くことができた。


「っていうか、アンタがあいつらの困る顔見たかっただけでしょ?」

「うむ! 清々したぞ! よくやった!」

「体張るのはあたしなんだけど……」


 言いながら、階段を昇っていく。昇りきったその先にいた一人の女性。彼女は疲れた様子でシャーミアたちを出迎えた。


「どうして面倒事を起こすのかしら……。騒ぎを聞きつけた騎士に見つかったらどうするつもりだったの?」

「ルシアンさんは心配しすぎよ。仮面もしてるし、簡単にはバレないと思うけど」

「バレるリスクが問題だって話をしてるんだけど……。まあ、いいわ。ああいった祭りにかこつけて詐欺紛いのことを働く連中を取り締まるのも、私たちの役割だから」


 ルシアンはその長い金髪を翻して歩き始め、シャーミアもその後ろについていく。


「早く向かうわよ。この祭りの目玉が始まっちゃうから」


 向かう先はディアフルンで最も城に近く、そして最も多くの人間が集まれる場所。

 大広場と、そう呼ばれている区画を目指す。そこではこの討伐祭におけるメインイベントが催される予定だった。

 魔王の娘と元王子の処刑。

 処刑など、誰が見たいと思うのか。そう思っていたのだが意外にも話題性があるらしく、大広場に近づくにつれて人通りは確かに増えていた。


「結構な数の騎士が警備にあたるのよね? あたし、あんまり近づきすぎない方がいいんじゃない?」


 シャーミアは今なおこの都市で追われている身である。そんな中、一大行事にのこのこと赴いていけば、騎士たちにまんまと見つかってしまうだろう。

 仮面を着けているとはいえ、騎士の目に触れる機会が増えるのはなるべく避けたかった。


「……そうね。でも貴女が捕まるのは、私としても不本意なのよ」

「ルシアンさんにはルシアンさんの仕事があるんでしょ? わざわざ騎士がいる中についていくのもあれだから、あたしはあたしで動くことにする。これ以上、迷惑かけるわけにはいかないもの」

「でも……」


 立ち止まり、ルシアンは振り向く。元々彼女はダクエルが責任を感じないように、シャーミアのことを匿っていた。

 ただ、既に今は討伐祭当日。いつまでも彼女の保護の下に行動する、というわけにはいかない。

 彼女、ルシアンにはやるべきことがあるはずなのだから。


「ルシアンさんが助けてくれて、とっても嬉しかったわ。いなかったら多分、万全な調子で今日を迎えれてないと思うし。……ありがとうね」

「お礼を言われるようなことじゃ……」

「――ルシアンさんは、自分が正しいと思ったことができる人よね。あたしのことを助けてくれたのも、きっとそんな自分の心に従ったから」


 ルシアンは僅かに、その瞳を伏せた。それほど強い人間ではないと、そう自己評価しているのだろう。

 だが彼女は騎士団に属しているにもかかわらず、その標的であるシャーミアを保護した。ルシアンの性格からして、それが職務怠慢からくるものではないのは明白だ。

 恐らく彼女は葛藤したのだろう。騎士団としての自分と、等身大の自分とで。

 そして選び取った。彼女自身を信用した結果が、シャーミアを匿うというものだった。


「私は、そこまでできた人間じゃないわ」

「そうかもしれないけど、少なくともあたしから見れば……、ルシアンさんは強い人に、見えるわよ」

「……それは――」

「だからといって、気負わなくていいから。ルシアンさんらしく、戦ってほしいし」

「私らしく、か……」


 彼女はまだ、迷っている。

 匿ってくれた時、シャーミアは彼女に共に戦おうと手を差し伸べた。その時、彼女の答えは未だ定まっておらず、選ぶべき道も見つけられていないようだった、

 彼女の立場も考慮すれば、そうなるのも自然なことだろう。この国を守るべきでありながら、平和を破壊するようなことをするべきではないという思いもあるはずだ。

 それを簡単に選べる人間は恐らく少ない。


 シャーミアができることはほとんどなく、ただ言葉を添えることが精いっぱいだ。

 だから待つ。信じることもまた、時には言葉よりも強く影響を与えることになるだろう。


「……正直、どうすればいいのかわからないの。この国を信じたい自分もいるから。優柔不断だって、言われちゃうかもしれないけど」

「迷うのなんて当然でしょ、人間なんだから。……それに何が正しいのかなんて、あたしも知らない。考えるの、あたし苦手だし。――ただ、後悔したくないの。何もしなくて、取り返しがつかなくなることだけは、イヤだから」

「……そう、そうね。私も、そう思うわ」


 雨を予期させる湿った風が鼻を掠めた。

 人通りは相変わらず多いものの、不思議とシャーミアとルシアンとの間に雑音は紛れず、会話において支障はなかった。

 どれほどの通行人が横切って行っただろう。

 やがて彼女はその視線をまっすぐにシャーミアへと向けた。


「……そろそろ行くわね。ごめんね、ついてあげられなくて」

「あたしってそこまで子どもっぽい?」


 シャーミアは文句を言いながらも、笑ってみせる。ルシアンもそれにつられて笑みを溢し、そして背を向ける。

 祭りの熱気が戻り始めた。遠ざかっていくルシアンを眺め、シャーミアもまた歩き出そうとその身を翻す。

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