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魔王の娘  作者: 秋草
第2章 過日超克のディクアグラム
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討伐祭②

 討伐祭は大盛況を見せていた。

 人の往来はもちろんのこと、その多すぎる来訪者を商機と見越してか物珍しい商品を売り捌く人間もいれば、不思議な大道芸を披露する旅芸人もいる。観光客だけではなく、そうしたビジネスを目的とした存在もまた、祭りの雰囲気を囃し立てていた。

 当然、そうした商売人の中には、不届きな輩もいる。市場価格よりも遥かに高い値段でモノを売りつけたり、難癖に等しい言いがかりをつけた挙句に押し売りのようなことをしたり。

 人が集まるというのはそういうことだ。騙す人間もいれば、そのことに気づかない弱者もいる。


「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! この剣でそこにいる魔獣を倒せば豪華賞品プレゼント! さあ、挑戦者はいないかね!?」


 男は景気よく叫ぶ。サングラスを掛けたその男の後ろには、一匹の獣が座っていた。それらを取り囲むように人だかりができていて、屈強な男たちが様子を見守っているようだった。


「俺が行くぜ」


 その集団の一人が声を上げた。禿頭の男は腕を曲げて力こぶを作って、周囲に見せつける。相当力に自信があるのだろう。筋肉を見てほしいかのような、布地の少ない服を着て、彼は主催の男から剣を受け取る。


「はいよ! 一回挑戦するにつき、金貨一枚だよ!」

「ほら! これでいいんだろ! 精々、豪華賞品贈呈の準備をしとくことだな!」


 金貨一枚あれば、このディアフルンで宿泊費含め三日間は飲み食いできるほどの金額だ。それを支払うほどの価値があると、その禿頭の男はケースに飾られたそれを見て判断した。


「知ってるぜ? 漆黒のエメラルド、だろ? 競売に掛ければ金貨数万枚はくだらない代物だ」

「おお! ご存じであれば話が早い! であれば是非とも、手に入れてほしいもんですな!」

「ふん。精々調子に乗ってられるのも今のうちだ」


 禿頭の男は剣を鞘から抜き出し、構える。銀色に輝くむき身がしっかりと、目前で座る魔獣に向けられた。

 体格による差はそれほどない。剣を構える男と同じぐらいの背丈が、その魔獣にはある。


「おらああああ!」


 男が剣を振るった。力任せに斬りつけられた魔獣は、その毛皮ごと首を落とす――、ことはなく。

 刀身は折れて、地面に突き刺さった。

 当然、魔獣の体に傷はない。


「ざあああんねん! 今回の挑戦者もダメでした! またの挑戦をお待ちしております!」

「ちっ! なまくらが!」


 吐き捨てるように言い、苛立ちを隠すことなく男はその場を後にした。


「俺もやってみるぜ!」

「俺が先だ!」


 自分ならば先ほどの彼のような失態は犯さない。そんな自信と筋肉に溢れる男たちが手を挙げる。

 それを主催の男は媚びへつらうように、笑いながら応対していく。


「へいへい! 毎度あり! ぜひ、その培われたご自慢の力を振るってくだせえ!」


 次から次へと客はそのチャレンジに挑戦していき、金貨は堆く積まれていく。


「ああ! またチャレンジ失敗です! どなたか、この魔獣を斬れる強者はいないのか!」


 観客を煽ると同時、貯まった金貨を横目で見やる。


(バカ共め! この剣はなまくらもなまくら。紙すら切れない欠陥品だ! まったく、これだから筋肉バカ共はちょろいぜ!)


 ついつい邪悪な笑みを浮かべそうになるものの、必死にそれを抑え込む。さて、次のカモがいないものかと客引きを再開しようとしたところで、背後から魔獣が服の裾を引っ張った。


「……おい! どうした」


 あくまでも傍目から見るとじゃれ合っているように見えているような体勢を取り、その魔獣の頭部に向けて小声で尋ねる。


「兄ちゃん。お、俺もう疲れたよ」

「もうちょっとの辛抱だ! 我慢しろ!」

「で、でも俺怖いぞ……」

「大丈夫だって! その着ぐるみの中は鉄の板で覆われてるからな。なまくらの剣なんかじゃ傷一つつかねえ。お前は何もせずただ座ってるだけでいいんだよ!」


 コソコソ、と。内緒話をする二人。そんな中、一人の挑戦者が手を挙げた。


「……これ、挑戦者に制限とかある?」

「お! お嬢さんですか!? 随分とお洒落な仮面を着けていらっしゃる! もちろん、挑戦者は誰でも歓迎です! ただ女性だからと、何かハンディのようなものはありませんが……」

「大丈夫よ」


 綺麗な銀髪を片方にまとめた、女性が次の獲物だった。顔は仮面で隠されているが、その豊満な女性らしい体つきに思わず見とれてしまう。


「……えっと? 金貨いらないの?」

「あ、ああ! すみませんね! それじゃあ、確かに受け取りました! それでは、はり切ってどうぞ!」

「じゃあ、遠慮なく――」


 一瞬、彼女の纏う雰囲気が変わった、気がした。

 主催の男に武闘家としての心得があるわけでもなかったが、それでもその剣を構える姿は、これまで見てきたどの男たちよりも様になっているように感じた。


(……まあ、どれほど頑張っても、なまくらじゃ鉄は斬れんだろうがな)


 余裕すらある眼差しを向けて、欠伸をかます主催の男。

 だから、というわけではないが。

 彼がその女性の剣捌きを捕捉することはなかった。


「――あれ?」


 訪れたのは、結果。

 座っていた魔獣の頭部。

 そこに亀裂が入ったかと思えば、ボロボロと崩れ落ちていく。


「はああああああああああああ!?」


 魔獣から出てきたのは、冴えない見た目の男。白日に曝されたそれを目の当たりにした周囲はざわつき、それはすぐに非難へと変わる。


「おい! 魔獣じゃねえじゃねえか!」

「なんだ!? その鉄の破片は! お前まさか、今まで鉄を斬らせてたのか!?」

「い、いや……これは――」


 浴びせられる断罪の声に、視線が散らかり定まらない。どうにか言い訳を考えようとするも脂汗が止まらない挙句、こうなった原因を探し始める。


(く、クソ! あの女! 何しやがった!)


 しかしどれほど探しても。先ほどいた銀髪の女性の姿は、見つからないのだった。

お読みいただきありがとうございました!


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