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【第十章】

ガゥジーラは流氷と共に夕闇へ消えた。


ここに来てやっと一息つける民衆たち。

あちらこちらから平穏を取り返したという空気が戻ってくる。

「これでガゥジーラとも、おさらばだなや」

犬公方の左方から、百姓のおじさんのホッと安心した声が聞こえてきた。

周囲の村仲間たちも同じ思いでお互いに顔を見合わせたり、笑顔が徐々に戻り始める。

「んだども、ガゥジーラっちゅうのは何だったんだべ?」

「そりゃあガゥジーラはガゥジーラだべ」

「ガゥジーラだなぁ」

そんなやり取りを「うんうん」と頷き微笑ましく眺めていた犬公方だったが、ふと、「え?」と驚き戸惑う。

馬を降り、隣のおじさんに問い掛ける。

「・・・すまぬ。今、ガゥジーラと申されたか? いや。大トカゲの名はガウズブダではないのか?」

近くに居た百姓たちが犬公方に呆れつつ続ける。

「がうずぶだぁ? なぁに言ってんだお前ぇ。ありゃガゥジーラだべ」

「んだ。んだ。綱吉様が名前なめぇ付けたんだども、あんた知らねぇだか?」

「お前ぇよ、ええ歳こいてそんな犬っころの仮面なぞ被ってる暇があったら瓦版ぐれぇ読んだらどうだべ?」

カラカラと百姓たちに笑われて困惑する犬公方=徳川綱吉。

「お、おお・・・」

名付けたはずの名前と違う事に「あれぇ~?」と不思議に思うが、少し考え「あっ!」と気が付く。

「はっはぁん・・・。さては小夜丸の仕業だな? ふふふ。い奴め・・・」

徳川綱吉は小姓・小夜丸が名前をガウズブダからガゥジーラに変えて世間に発表した事実に気付く。

民には既にガゥジーラで浸透している様子だ。

「ま、いわ!」



数日後。

炎天下、陽射しはきつく蝉どもは相変わらず騒がしい。

にも関わらず往来を行き交う人は多い。

江戸の町はいつでも活気に満ちている。

この古い寺院へと続く大通り、参拝者向けの茶屋の軒先では法螺狗斎と三田井汁之丞の妻が冷たい麦茶を飲んでいた。

「・・・それじゃトワさんは、わしが菱川師宣だと最初から気付いておりましたのか?」

「はい。本名を藤原吉兵衛さんだと伺った時から・・・」

「あれまぁ。こりゃ一本取られましたな」

「・・・ですがハッキリ確信が持てたのは描かれた大トカゲの絵を見た時です」

「ほう!」

「筆のたちが菱川師宣先生のものでしたので」

「・・・うむ」

「それと構図も独特なつやがあって・・・」

「トワさんは大したもんですな」

「いいえ。私はただ絵が好きなだけで・・・」


余談になるが付け加えておこう。

この彼の筆名、「法螺狗斎=ほらくさい」。

少しずつ変化しながら弟子たちに継がれ続け、のちに一人の天才が「北斎=ほくさい」と名乗る事となる。



一方、時同じくして江戸城。

三田井汁之丞と七人の虚無僧たちが徳川綱吉に呼ばれ登城する。

「此度の其の方達の働き、実に見事であった」

八人は深く頭を下げる。

「そこで、じゃ。先ず汁之丞殿、余の元で剣術と針灸を指南しては貰えぬか?」

「あ、有り難う御座います!」

片や、虚無僧七人衆に綱吉は。

「して、葉草守の者達よ、三つ葉葵の御紋、徳川に仕える事は出来ぬか?」

「綱吉様、誠に有り難き御言葉、早急に我等が頭領にお伝えしまする!」

改めて深く平伏する虚無僧と三田井汁之丞。

「いやいや。そんなに堅苦しくするでないぞ。はっはっは!」

徳川綱吉も爺も満足な笑顔である。



さて、エレフアント。

かのエレフアントは幕府領の茅ヶ崎村に特別に屋敷を与えられ、希望者は身分を問わず誰でも日中であれば何時でも会いに行けたという。

ここから現在でも茅ヶ崎には登象という地名が残されている。



以上、『ガゥジーラ排撃奮闘帖』、これにて一巻のお仕舞い。


めでたし! めでたし!




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