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22話 領主と皇太子


 さて、狂言のつもりで来たガゼル領だが本当に悪魔のカイナがいるとあらば話は別だ。


 もとより此度の事件については自分が全権を預かっている状態。そうでなくとも放置していればこの周辺地域に害を及ぼす可能性もないとは言えない。


 この地にも設置されている教会、そして叔父上のところへと伝書の鳥を飛ばす。


「悪魔のカイナがこの辺りにいるとして、潜伏場所の想定はしておきたいな……ネグロ」

「はっ。」



 敬礼をするネグロを呼び寄せ、妹たちとは少し離れた場所へと移動する。

 人気のない場所へと移ってから改めて振り返り、本題に入った。


「率直に確認しよう。この地に存在した魔月闇管理地区……あそこに、彼らが潜伏している可能性はあると思うか?」


魔月闇管理地区ルーメン・オーエン・ルナと呼ばれるその場所は、魔月の民と呼ばれる魔力を持つ人々が集められる地域です。

 職業差別、人種差別から彼らを守るためという設立当初の信念はいつしか薄れ、魔力をもつ人々を隔離するための地区として存在。


 塀で高く囲われた空間は特定の門からしか入ることはできず、内部は劣悪な環境が広がっているとされています。ゲーム中ではネグロ騎士団長が幼少期にいた場所として、スチル内で画像があげられています》



 空想遊戯の中でもあの場所について描かれていると聞くと心が痛む。

 あそこは正しく皇国の闇の一端だった。否、未だ撲滅しきれていないことを考えれば過去形にすべきではないのだろう。


 この地区の管理地区はネグロが出て間もなく封鎖されていると話に聞いてはいるが……。

 沈鬱な気持ちで尋ねれば、固い顔で首肯がかえってくる。



「十二分にあり得るかと。あそこは魔力を持つ者が長い期間集まっておりましたから、この領土の他の地よりも魔力に満ちています」


「中に入ることは可能か?」


「……現領主の意向次第かと」



 なるほど、マナの実だけでなくもう一件、叔父上とはやりあわねばならないようだ。



 心労がないとは言わないが、私情でもある実の件よりはいくばくか気は軽い。


「ならば直接叔父上に問うとしよう、悪いが早急にロダ=フォルトゥナ・モル=ガゼル領主にアポイントメントを取ってもらって構わないか?」

「はっ!畏まりました!」



 傍に控えていた文官に声をかければ、真剣な瞳と礼が返ってきた。




 ◇



「これはこれは。まさかお忙しい皇太子殿下がこのような辺境に足を運ぶとは思っておりませんでした。」

「お久しぶりです、叔父上。

 御創建なようで何より。皇都でありました問題がこちらにも紛れ込んでしまったようで。このまま叔父上の領土を荒らすわけにもいきませんから、解決に動かせていただいた次第です」



 会談の場はその日の夕方には設定された。

 領土内で最も広い屋敷の応接間は、絢爛(けんらん)のかぎりをつくしたような造りと調度品が所狭しと並んでいる。



「そうですね。部外者に訳知り顔で荒らされるのは真っ平ごめんですから。即急の解決をしていただけるように殿下には期待しております。」

「……。」


 どこか(とげ)のある言葉に後ろの温度が若干のみならず冷え込んだ心地を覚える。


 私を挟んで実質数年ぶりの親子対面ではあるが……。どちらも血縁としての互いを認知していない状態だ。冷え込むのは仕方がない。



『チュン、チュンチュン?』


 ……今のはあなたへの言葉に冷えたんじゃないの?と言わんばかりの視線が肩から注がれる。


 可能性はあるけれど、それはそれで胃が痛いな……。



「ええ。そのつもりです。とは言え私も全能ではない。この椅子に座って目を閉じるだけで世界の全てがわかる身の上でもありませんから、可能ならば領内の移動権についてを融通いただけないかとまかりこした次第です。」


「おや。殊勝ですね。……たとえ皇族だとしても、領内での権限は各領を治める貴族に次ぐ。それくらいはいかに若輩者でも理解しているわけですか」




「(……ネグロ。頼むから抜刀するなよ……)」


 叔父上の嫌味に対して考えられることなんてそれくらいだ。

 うっかりここで叔父上を彼が切り捨てたら……もみ消すことは可能だが、……可能だが。個人的な心情として憚られる。



《ネグロ騎士団長やブラン皇帝陛下が二大派閥と言われたのは、それぞれの政治力の高さにあります。けれどもどちらの政治力も、亡きヴァイス皇太子殿下の足元にも及ばないとも言われているよ!》


 それはさすがに言い過ぎか二人の主観だと思うが。




 とはいえ、最悪のことにはならなかったようで叔父上の言葉は続く。


「仕方がありませんね。かの偉大なる皇太子殿下は情深く徳が高いお方。そのような方の要請を断れば、よその貴族たちになんと言われるか分かった者ではない。」

「そのようなことはないと思いますが……お心遣い、感謝いたします。」


 胸元に手を当てて目礼をすれば、不満気に鼻を鳴らされる。

 あいにく私の叩頭礼が許されているのは父君に対してのみだ。向こうもそれを理解しているから、揚げ足になりそうなことは口にしないが。



「そういうのならば実利として返していただきたいものですね。それで?魔月闇管理地区の捜査権だけで十分でしょうか?」

「そうですね……いえ、可能でしたらもう一つ」



 力の塩梅を脳内で勘案する。



 今の自分と叔父上の立場はほぼ平等だ。


 この土地について絶対的な力を持ちながら皇弟であり一介の貴族としての身分である叔父上。

 彼はこの場所のどの地にも足を踏み入れ、踏み入らせる権利を持っている一方で皇都にたいしての発言権は正直にいえば高くない。


 かたや自分はこの土地からすれば外様であり、かつて魔月闇管理地区の封鎖を解いた張本人。

 だが皇都での権限は父君である皇帝に次ぐ二番目であり、他の貴族からの所感も悪くない。



 実際に動く権利は自分は低いが、向こうは向こうでなんとかしてこちらに恩を着せたいのが現状だろう。

 恩を着せてその通りに動いてくれれば重畳。そうでなければ恩があるのに不義理を果たした残酷な皇太子だと自分を責め立てることもできるのだから。



「(……だが、その噂話は今の私にはプラスになる可能性もある)」



 協力をしてくれるネグロやブランにはいまだ猛反対をされるが悪逆非道の皇太子としての振る舞いをする選択肢も、いまだ自分の中では零にしてなかった。


 当然だろう?だって誰だって、──たくない。


 だからここで義理を向こうにあえて重く預けることで、後の流布に一役かわす。それだって考えていいはずだ。



「マナの実と類似した物質を押収したというお話を風の噂で耳に挟んでおりまして。もしよろしければ、一度拝見させていただくことは可能ですか?」


「はぁ?……、……いえ、構いませんよ。」

「ありがとうございます。」


 腹芸や欲を隠すことができないのだろう。

 何かを謀るような顔を浮かべる彼はある種誠実とも言えるかもしれない。



 ──今の優先順位は悪魔のカイナの捕縛、次いでマナの実の確認。

 それに応じて風評も広げられればこの上ない。



 未来について知るため、少しでもあの子達にとっての良き未来を得るためなら、ためらう必要など一つもなかった。

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