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1話 炎の夢と青い鳥


グレイシウス皇国は女神ノラシエスを信仰している。

彼女の祝福により導かれし聖女が国を繁栄させると信じられており、年始に皇帝と大司祭長が行う召喚の儀が、国事として取りしきられている。


今年もそれは変わらずに行われる予定だった。

ここ十数年は聖女が呼ばれていないとされるが、それは聖女が不要な時と女神に判ぜられたということ。



それも含めてこの年一年の進退を神に問う時。


召喚の儀を行おうとしたその瞬間、魔法陣が爆発したのだ。


ぱちぱちと炎の粉が粒子となりはじけ散っていく。


常ならば美しいと思える光景がひどく背筋を震わせる。



父上と大司祭長は……もっとも魔法陣に近い場所にいたこともあり爆発からまもなくして命を落とされた。

皇太子である私は、周囲にいた人々を法術で治癒してまわり、息のある人々を避難するように誘導をしていく。


「誰か!!誰かいないのか!!!」

「ぅ……ぅう……」


部屋に元々いたのはおよそ二十名弱。


軽傷者はほんの二名。

他は皆重傷か……既に意識がない状態だ。

それでも助けられそうな幾人かに治癒をかけ続け、肩を貸し、声をかけて。


ようやく神殿の出口にたどり着いたところで、扉が瓦礫の中に埋もれている絶望感。


それでも最後まで諦めきれなかったのは、ここに来る前に自分の足元にしがみついてきていた幼い弟妹のことを思い出すから。


あの子たちを置いて、悲しませると分かって死にたくなんて、ないのに。


手が赤くはれぼったく、折れでもするのではないかというほどに叩く。叩く。


既に煙は充満しており、大きな声を出そうとすると口だけでなく喉や肺も。焼け焦げてしまうのではないかという痛みが走る。


「ブラ、……ン……。……ビ、アン……」


はにかむような二人の笑みを脳裏に浮かべながらも、限界はやがて訪れる。


次第に足から力が抜け、ずるずると体が崩れ落ちていった……。





チチチ……と小鳥の鳴き声が聴こえる。


女神のもとにも小鳥は飛んでいるのだろうか。


「……さま、…おに……ま、……ヴァイスお兄さま!」

「うわっ!?」


布団の上に大きな衝撃をうけて目が覚める。……布団?

見下ろせばいつもの寝台。

羽毛の詰まった柔らかな布団の上に乗る丸い影。栗色の髪と水色の目をもつ、天使のような幼い少女。


目に入れても痛くない、末の妹。



「……ビアン……」

「えへへ、兄さままだねぼすけ?」

「そうだな……。昨日は夜更かししてしまったから」

「えへへ。ヴァイス兄さまがねぼすけめずらしい!」


ふくふくとした頬をほのかに浮かせて笑う少女は、可憐というよりはまだ愛らしさの方が強い。


思わず頬をゆるめるほどの、のどかな風景だ。


「朝だから起こしにきたの!」

「……ふふ。そうか、ありがとう」


その頭を撫でればにぎやかな歓声がわく。



「けれど、ばあやとステラにはちゃんと言ってきた?」

「むぅ」

「ビアン。まさか言わないできたんじゃないよね?」

「いったよ!あとで言った!」


後で……ということはナイショで来たのだろう。

これは今ごろ二人ともが妹のことを血まなこで皆探しているかもしれない。


部屋前を警護しているはずの衛士たちが声をかけに行ってくれればよいのだけれど。


「なら、今から言っておいで」

「やーん、まだ兄さまといたい!」

「後で朝餉の席で会えるから。そこで今日お前が何をするのか教えておくれ。」

「兄さまこのまんま寝ちゃわない?」

「寝ないよ、寝ない。」


分かった!と明るい声が部屋にひびき、上体にかかっていた温もりと重みが離れていく。



弾むような足取りの調子にあわせて心臓の音がおさまっていく。


目覚めた時に早鐘をうっていた脈も、ようやく落ち着いてきたようだ。あの子に聞こえてなければいいのだけれど。



「……先ほどの光景は夢、だったのだろうな」


《夢ではありません。先ほどの光景は今から1年後に起こる光景となります》

「…………っ!?」


突如聴こえてきた不吉な言葉。


あの夢が未来の光景?それもたった一年後のこと?


いや、今はそれよりも前に。



「何奴!!」


今の奇妙な声の正体を確かめねばならない。


寝台から飛び降りて周囲を見渡す。

片手は自衛用に部屋に置いてある細剣を握りしめた。


……が、それらしい影は見当たらない。

これでも騎士団長から剣をならったこともある身。いかに姿を潜めようと人の気配を覚れないことなどなかったのだが……。


周囲に目をくばっていると、違和感を見つける。先ほど離れた寝台からだ。


枕元のあたりの布団がわずかに膨らんでいる。

……まさか、そんな近くにまで何者かの接近を許していた?


だが、およそそれは拳大程度の膨らみだ。

魔術ならいざ知らず、法術でそのような遠隔操作ができるすべを自分は知らない。


最大限の警戒を解かずにいれば、それは次第に膨らみを増し、布団が持ちあがる。



『……ぴぃ!!』


「…………は。……鳥、……?」



あらわれたのはぴょこん、と後ろ側の毛が少しはねた青い鳥。


外で見かける小鳥と大きさは同じくらいだが、心なし丸みがつよい。

シルエットだけならボールかなにかと見間違ってもおかしくはない。


「……はぁ。妙な夢を見て神経が過敏になっているということか」

『ぴ!』


いくら何でも刺客には見えない。

念のため口で小さく術式を唱えるが、どうやら魔力らしいものは身に纏っていない。魔族からの差し金という選択肢も外していいだろう。


……それはそれとして、どこから入りこんだのか、そもそもこのフォルムで飛べるのかという疑問はあるが。


布団から出てきた鳥は、その疑問にこたえるようにぱたぱたと羽をうごかす。


うん、少しだけ浮いているな……。

飛べるのか、このフォルムで。


「お前は一体なんなんだろうな。ただ迷い込んできた鳥だというのなら、庭に後で放してやるが……」

《いいえ。私は女性向け乙女ゲーム『戦華の聖女〜忘れ名草と誓いの法術〜』副音声解説NPCのバラッドです》

「は!?!?」


今度ははっきりと分かった。

先ほどと同じ無機質な声。

それがこの青い鳥から出ていることに。

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