9 怪物の悲鳴
・前回のあらすじです。
『【サラマンデル】のひとりが、ユノにたのみごとをするために、たたかいを中断する』
〇
『うおおーん!!!』
ユノがつれてこられたのは、峠道のなかばだった。さきほど、ヨルムンとニドヘーグと交戦したところから、あまり距離はない。
なみだまじりのふるえ声が、しっぽのついた尻からながれていた。いや、尻のむこう――スパリと切れた、胴体のさきに音源はあるのだろう。
じょうだんみたいに、山の景色にスリットをいれて、そこから上半身だけをかくしたみたいになっている、赤い爬虫類のモンスター・【サラマンデル】。彼が、ニドヘーグがこぼしていた「ファブール」とかいう個体なのだろう。
ぶんぶん。
鳴き声とともにゆれるトカゲの尾を指さして、ユノは……ヨルムンのほうを見た。説明をもとめて。
『はなせばながくなるんだが……』
『おれたち、魔界からこっちに来てたんだけど、帰ろうと思って移動してたら、なんか魔王さまが倒されちゃったみたいでさ。人間界側にあった、ちょっとした世界の【破れ目】が閉じてっちゃって。あわてて【魔界】にもどろうと穴に飛びこんだファブールが、半分だけ飲まれた状態で、さかい目が閉じちゃったってわけ』
「わかったような、わからないような」
ニドヘーグから語られたあらましに、ユノはちょっと罪悪感をいだきつつ、眉間を押さえた。魔王を殺したのは自分だ。