8 ええっ!? スゲエ!
・前回のあらすじです。
『かおにきずのある【サラマンデル】のしっぽを、ユノが焼き切る』
対峙している魔物は、しっぽがなくなったことに、あんぐりとしているのではなかった。
そのことにユノが気づいたのは、あいての突き出た鼻づらが、かすかに動いたときだ。
『セレン……?』
サラマンデルの胴間声が、ユノにさきほどの破壊光線――【気術】とよばれる妖術の、一派をさずけた女妖精の名をつむぐ。
ユノはサラマンデルを撃ったときの、横着な体勢により、ごろりと地面にころがった。隙だらけにもかかわらず、そしてもう一頭、小ぶりなサラマンデル――【ニドヘーグ】と呼ばれていた――は、自由に動ける身であるにもかかわらず、彼らからの反撃はない。
『【セレン】っていうと、魔王さまのおっしゃっていた―――――――』
ぶつぶつひとりごちる、傷痕のサラマンデル。
びゅん。とユノのそばから、ニドヘーグが跳躍して、なかまのとなりに着地した。声をひそめて、同族のようすをたしかめている。
『どうしたんだよ、ヨルムン?』
顔をつきあわせて、二頭の怪物――ヨルムンとニドヘーグは、ひそひそとはなした。
『セレンといえば、ずいぶんまえ……魔王さまのそばづかえをしていたときに聞いたことのある名前だ。たしか、妖精族をたばねている長だったはず』
『ええっ!? すげえ! ヨルムン、魔王さまの側近だったの!? なんでやめちゃったんだよ~。給料いいって、ほかのみんなからは聞いてたけど』
『そりゃ条件もいいし、しごとの内容だってやりがいのあるものだったが、人間関係が――って。そうじゃなくてだな……とにかく、』
「ヨルムン」と呼ばれたトカゲ男は『ふん!』と気合いをいれて、ちぎれたしっぽを復活させた。黒焦げになった尻から、皮膚とおなじ赤い色の尾が飛び出す。
すでにころんだ姿勢から立ちあがり、ブロード・ソードをかまえなおしていたユノは、来るであろう【第二ラウンド】にそなえていた。が――。
『セレンの「技」をつかうということは、きさま。異界の勇士だな?』
ヨルムンは武器を持たない左手をあげ、戦意の喪失をしめした。ニドヘーグは、指揮役のなかまの態度の一転に、大きな目玉をしろくろさせる。ユノは警戒を解かない。
ヨルムンはつづける。
『もし、おまえが異世界から召ばれてきた【勇者】というのなら、たのみたいことがある』
右手につかんでいた剣を鞘におさめし、肩のたかさにあげる手を両方にして、ヨルムンは完全降伏のしぐさを取る。
横目でうながされて、年少のトカゲ男――ニドヘーグもまた、不承不承、腰の鞘に武器をおさめた。ベルトの背なかに手をまわす。
すわや、「ナイフでも飛ばすか?」とユノは握りしめる柄にちからをこめた。ふたたび出てきたニドヘーグの手のさきで、ひらひら、なにかがひるがえる。
……『白旗』だ。
「たのみたいことって?」
二頭のようすに、ユノもまた、とりあえず剣をおさめた。ヨルムンが、重々し気にうなずく。
『道すがらはなす。ちょっとなかまがドジをやってな。たすけてやってほしいんだ』
「……」
無防備にユノに背をむけて、ヨルムンは山道を、山頂ちかくの地点にひきかえす。
彼と、うしろからまだ不審の視線をなげかけてくるユノとを見くらべて、ニドヘーグもまた、もときた道をあるきだした。
『正気かよ、ヨルムン。あいつにたすけをもとめるなんて……。いくら魔王さまを討った【勇者】だって言ってもさ。ファブールのことをどうにかするのは無理なんじゃないか?』
『できるさ』
確信に満ちたおもざしで、ヨルムンは断言した。
魔王【ディアボロス】を殺害した、【異世界】からの来訪者――ユノのついてくる足音を、背後に感じつつ。
『ウワサがほんとなら、やつは【エクスカリバー】を持っているはず。もしそうじゃなかったとしても、【霊樹の杖】を持つ妖精を呼んでもらえばいいはなしさ』
・以上で、今年(2023年)の『【異世界転移】をやってみた《4》 ―旅のおわり―』の投稿は、おわりです。
・つづきのエピソードは、来年(2024年)の1月の初旬を予定しています。
読んでいただき、ありがとうございました。
よいおとしを。