79 神代の武器
〇まえの回のあらすじです。
『ユノが、セレンの杖をはじく』
ユノは無音の歓声をあげた。
木々のあいまにのぞく朝露の空に、杖の上端がくるくる回転して放物線をえがく。
武器もなくセレンが攻撃をつづけるとは思えなかった。
事実そうだった。
足元をねらって、ユノは剣を片手に振り抜く。
(セレンさんを無力化して……。それで……。それで――)
――もう一度、考えなおさせる!
どずッ!
刃の先端が肉をつらぬいた。
音はセレンの脚から鳴ったのではなかった。
焼けるような感覚。痛み。
ユノの心臓の下。左にかすかにそれた部分に、冷たく、しかし熱い、鋭い感触はあった。
(……!)
ユノは、自分をつらぬく痛みに身を引いた。
すぱっ。
小気味のいい音をたてて、色のない刃物が脇腹から抜ける。
なにもないはずのところに、血が浮いている。
ほんのり発光している。
鮮血によって赤く可視化した刀身の向こうには、木の杖の下半分がある。
とがった木の柄を、セレンの白い手が握りしめている。
「エクスカリバーのような名刀が、人間にだけ与えられたものだとは、思わないことですね」
ひゅん。
右手に掴んだ杖――仕込み刀のように、グリップの部分から突き出た細身の刃を振るう。
森の空気を切って、刃はたちまち、その身に浴びた返り血をぬぐった。
「それは……」
よろめきながら数歩離れ、ユノは透明な凶器を見つめた。
セレンが答える。
もう笑いもしない。
「霊槍グングニル。世界樹たる巨大なトネリコの根より作られた、妖精の長にのみ授けられる、神代の武器です」
義務的な返答が、終わるやいなや。
セレンはユノに打ち掛かった。
『戦いは本分ではない』と明言しておきながら、たいしたスプリングもなしに、セレンは一瞬でユノとの間合いをつめる。
勘に任せて、ユノはでたらめに剣を逆手に振った。
胸のまえで、金色の火花が散る。
互いの刀身が噛み合い、耳障りな響きをあげる。
流れるユノの血が、空中に尾を引いた。
怒涛となだれ込むセレンの斬撃を、アドレナリンに白熱した頭が、右腕に電気信号を殺到させて弾き返す。
(ガッ……!)
出血にめまいがする。
相手は回復の魔石を使う間をあたえない。
ユノはうしろに跳んだ。距離をかせぐ。
背なかに木の幹の感触。
セレンの一撃がくる。
チカチカと明滅する視界のなかで、ぼやりとゆがむ霊妙な槍の輪郭が近づく。
(今だ……!)
限界まで引きつけて、ユノはヒザからちからを抜いた。
槍の薙ぎ払いが、下がった頭のてっぺんをかすめて通りすぎる。
ガッ。
光の矛は高木の幹を打ち、ちからのベクトルのままに突きすすみ、反対方向へと断ち切った。
セレンの表情がゆがむ。
彼女のちからが、木を割り裂くのに費やされた、わずかな時間。
ユノはセレンの心臓めがけて、エクスカリバーを突き出した。
静かな声が、なにかをつぶやく。
ユノの耳元で、大きな破砕音がした。




