表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/82

 75 裁き




   〇まえの回のあらすじです。


   『ユノとセレンの会話』






「セレンさん」

 ユノは切りだした。

「【魔界(まかい)】で、ディアボロスをたおしたとき、【(あく)】のちからは、人間界への(かべ)が再生されたことにより、ながれこむことがなくなった。だから人の世界には【善】のちからだけになって、調停者(ちょうていしゃ)である【(きん)(りゅう)】を必要ひつようとしている。人にとって、あなたたちのいう【善性(ぜんせい)】っていうのは、理想的なものであるのと同時に、自己のうちにある()(じゅく)さを、いたずらに責めたてるちからでもあるから。そうでしょう?」

「ええ」

 簡潔(かんけつ)にセレンは答えた。それがどうしたとばかりに。


 ユノはつづける。

一番(いちばん)いいのは、(きん)(りゅう)を……ハルモニアを、人間の世界にかえしてもらうことだとおもう。それがメルクリウスにおいて、連綿(れんめん)とつづいてきた人の世界のありかたなのだろうし」

「そうですね。ですが」

「セレンさんにそのつもりはない」

 相手あいて言葉ことばにかさねるように、ユノは言った。

「わかってるよ。だいたい、ボクの行動をみて、ハルモニアを返還(へんかん)するかどうかを決めるって時点で、どうかしてたんだ。気づくべきだった。もっと(はや)く……」


 ()いあがっていたのだ。

 自分がこの世界にとって、存続(そんぞく)滅亡(めつぼう)かを決められる、唯一(ゆいいつ)の存在になれたのだということに。

 世界の命運(めいうん)をにぎるという、大任(たいにん)()わされたことに、いくら難儀(なんぎ)ぶってみせても、心のどこかで、ようやく存在(そんざい)意義(いぎ)()いだせた気がして。


「まちがってるんだよ、セレンさん。ボクなんててたってしかたないよ。ボクはほかの世界から来た人間だし、ボクよりも立派りっぱな人は、メルクリウスにたくさんいる。セレンさんが見守(みまも)るべきだったのは、そういう、ずっとメルクリウス(この世界)で、この世界の摂理(せつり)のなかで生きて、くるしんで、それでも()えて……()()いてきた人たちだったんだ」

「見てきた結果が『(いま)』ですが」


 光妖精(アールヴ)をはじめとする妖精族ようせいぞくを、【霊樹(れいじゅ)(さと)】にかこい、人の世界からは【(きん)(りゅう)】を取りあげ、人間の破滅(はめつ)気長(きなが)つことにした。


 未熟(みじゅく)であること自体は(あく)ではない。だがいつまでもそこに(とど)まりつづけることは悪質あくしつであり、『(つみ)』である。

 その『罪』もまた、すべての(せき)を自分で()い、(あがな)うのであれば、ただ無力(むりょく)だっただけにわる。

 なのに自分の『(つみ)』に対する(むく)いを受けることもなく、ばかりか他人をきずつけることで、()みにじることで、自分の無能(むのう)からをそらし、(うつ)ろな()(そん)(しん)を取りつくろう人間のなんとおおいことか。

 それも人間種にんげんしゅのなかでおさまっているのなら、セレンも人の破滅(はめつ)をまねくなどという暴挙(ぼうきょ)には出なかった。


 (とど)まることを知らなかったのだ。人間の(おろ)かさは。


 ユノにはセレンがなにを考えているのかわかる。

 かのじょは悪事あくじをはたらく人間に(ばつ)あたえたいだけなのだ。

 人間のなかに、それができる人はいなかったから。とはいえ。


悪人あくにんだけをほろぼそうっておもわなかったの?」

 ユノは静謐(せいひつ)に言った。森の(いけ)を、池の表面(ひょうめん)だけをつめて言った。

「ボクは、元の世界でいじめられてたとき、ボクをつらいにあわせる人たちに対しては、殺してやりたいって思ってた。反撃はんげきゆるされるなら、たぶん、やっていたと思う。でも、(こう)不幸(ふこう)か、ボクがいたところは、『正当防衛(しかえし)』っていうのを過剰(かじょう)におそれている国だった」


 自然とかおを持ちあげることができた。セレンもまた、似たような動きでセレンのほうをいていた。かのじょのグリーンの双眸(そうぼう)を、ユノは透明とうめいな気持ちでつめた。

 なんの(てら)いも、まよいもない。正直しょうじきな。愚鈍(ぐどん)な。(しゅう)(かい)な気持ちだった。

「セレンさんも、そうするべきだった。ふつうに生きている人まで、(じっ)()ひとからげに(ほろ)ぼすんじゃない。自分の同胞(どうほう)を不幸にしたものだけに、(さば)きをあたえればよかったんだ。……『制裁(せいさい)』っていうのかな」


 フッ。

 とセレンが笑った気がした。微笑(ほほえ)んだのだ。

「『ふつう』の人もまたどうなるかわかりません」

「そうだね。でもね」

 ユノはもう(おそ)れはしなかった。セレンは正しい。

 『どうなるかわからない』という可能性かのうせい(ろん)じる点に()いて。

 『NO』と(だん)じ、(はん)(しょう)することは、そうたやすいことではないのだから。


 だが。


「あなたが必要ひつようとして、たすけをもとめたかった人たちは、あなたが破滅(はめつ)へといやった人間のなかにもいた」


 両手りょうてに、ゆるりと(たずさ)えていた神剣(しんけん)・エクスカリバーを片手に持ちかえる。

 すっ。とセレンの首元に突きつける動きもまた、ユノ自身おどろくほど気負(きお)いのない動きだった。


「セレンさん。妖精(ようせい)族長(ぞくちょう)であるあなたなら、人間界に【善なるちから】を妖精界ようせいかいからながすのを止められるはず。この考えが正しいなら、いますぐ供給(きょうきゅう)をやめてほしい。そうすれば」

無法(むほう)になるでしょうね。人間界は、なんの秩序(ちつじょ)(ほう)もない、もあてられないような地獄になる」


 ――かもしれないね。

 と答えかけて、ユノは肯定(こうてい)()をねじふせた。


 これは詭弁(きべん)だ。


「自分たちのちからでなんとかするさ。それが信じられないなら――」

()りますか。私を」

 息をするようにセレンは()げた。手にある霊樹(れいじゅ)(つえ)はぴくりとも動かさないまま。

 視線だけはユノをとらえて。


「あなたの言うとおり、私にはちからを止めるだけの能力(のうりょく)がある。ハルモニア(さま)とは(こと)なり、『(せい)』か『(どう)』かを切りかえるのみですが。それはともかく」

 セレンの萌黄(もえぎ)(いろ)かみがゆらいだ。なが絹糸(きぬいと)のような頭髪とうはつ一本(いっぽん)一本(いっぽん)が、たゆたう魔力(まりょく)にかすかにふるえる。


「戦うのはアールヴの本分(ほんぶん)ではないのですが。いいでしょう。切りむすぶことであなたの気が()れるというなら、相手あいてはしてあげます」

 ただし。とアールヴの(おんな)族長(ぞくちょう)はつけ()した。


手合(てあ)わせの代価(だいか)は高くつきます。ユノさま、あなたのいのちだけで()めば、やすいものだとおおもいください」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ