74 攻撃できる距離
〇まえの回のあらすじです。
『元の世界でのユノのあつかいと、異世界【メルクリウス】であたらしい名前をあたえられた意味』
腕をのばせば届く位置に、セレンは立っていた。
ユノが攻撃をしようと思えばできるし、セレンが杖を振るえばユノを殴打できる距離である。
二人の手には、すでに各々の武器が握られていた。
ユノはエクスカリバーを。
セレンは霊樹の杖を。
ユノはセレンのたずさえている杖を盗み見た。
いつだって彼女と共にあり、立つときも歩くときも、かのじょを支えつづけた杖。
(足がわるいってワケじゃないだろうに)
観察を終えてユノは思索する。セレンの瞳は動かない。あいかわらず、森の池にひたと向いている。
(あの杖をいつも持っている利点は、大きく分けて二つ)
ユノは推測をつづけた。
(ひとつは、どんな時でも『逃げられる』ようにするため。セレンさんはこれまでにも、何度もテレポートをしている。もっとも、『逃亡』というかたちで使ったことはないけれど)
セレンが使ってきたワープの能力は、『移動』の手段としてだった。だがそれは副次的なものでしかないと、ユノは考えている。
(もうひとつは、)
あまり当たっていてほしくはなかったが。
(いつでもボクと戦えるようにだ。わざわざ、エクスカリバーと張りあえる武器をだいじに持ってるんだもの。でもって、必要なら、セレンさんはボクみたいなやつ、カンタンに葬ることができる)
うぬぼれが許されるなら、ユノは、セレンが徐々に、自分に開襟してくれていると思っていた。しかし仮に気をゆるしてくれているのだとしても、個人的な情緒をわきに置いて、ひとりの人間を排除することを、セレンは迷いなくやってのける確信があった。
人間の王でさえ、私情を退けて英雄に死罪を言いわたすことができるのだ。
セレンとの戦いを避けたいのなら、交渉を成功させるしかない。
人間の世界に、『妖精』や『神』にしか通用しない『完全』を強制する圧力を供給するのはやめろ。と。




