7 ひさしぶりの技
・前回のあらすじです。
『トカゲのモンスター【サラマンデル】と、ユノが交戦する』
めきっ……。
拳のめりこんだトカゲ男の腹が、奥でにぶくきしむ。
『ぐう――!』
ながい首から空気をいっきに吹きだし、小柄なサラマンデルが、がくりと地面にひざをついた。
『ニドヘーグ!』
名前めいた発音を、もう一匹の魔物があげる。ユノは正拳突きのかまえを解いた。
大声とともに、剣を振りかぶり突進してくる、顔に刀傷のある魔物――大柄のサラマンデルに、がくぜんとする。
(ひとの言葉……!?)
聞きまちがいかもしれない。だが、これまで遭遇してきたモンスターのなかにも、ひとの言葉をあつかうものはいた。ユノの記憶につよくのこっているのが、去年にあいまみえた、【銀色の狼】や、パペルの塔最上階にて、【霊樹の里】への門を守っていた【ダーク・エルフ】の青年だ。
おどろいているうちに、敵から無造作に放たれた刀身の薙ぎはらいを、ユノはしゃがんでかわす。その動きはかんぜんに読まれていたようで、トカゲ男の顔が、一瞬の喜悦にゆがんだ。
ぶうん!
するどい風のうなりをあげて、刀傷のサラマンデルは、剣技のいきおいにのったまま、鍛えあげられた身を反転させた。ユノのほうをむいたふとい尾が、天にむかって高だかと振りあげられる。
「――――! 」
その瞬間。緊張に高速回転する頭で――精査するだけのよゆうはなく――ユノはひとつの反応をはじきだす。
……それしかなかった。というべきか。
「セレンさん!!」
大声で、契約した妖精の名前をよび、上体をしずみこませた体勢から、むりに化けものめがけて左手を突きだす。
きみょうに身をひねったユノのからだは、坂みちのともなう下へのちからに圧し負けて、ぐらりとかたむいた。そのままころぶのは承知だ。
――光が、ユノの手のひらからほとばしる。
高温域にまで熱された閃光が、周囲の空気をプラズマ化させ、しろく可視化させていた。
打ちおろされるトカゲ男のふといしっぽに、光線が直進する。
一条の灼熱が、音もなく、怪物の尻からさきを切断した。外気に温度をうばわれて、光の熱波は、山道をつつむ樹冠にとどくことなく消えた。
ぼとり。
木の葉のようにひるがえり、黒い物体が、ユノの頭上を越えて、うしろに落下する。
それは千切れたしっぽだった。
根の部分からなかばまでが炭化し(たんか)ている。
痛覚さえもが灼き切られたのか。
大柄のサラマンデルは、自分の身に起こったことがわからない顔をしていた。
ぼうぜんと、黒炭となった自身の一部を見おろしている。