63 里の夜
〇まえの回のあらすじです。
『セレンがにんげんの世界に、枯れた【苗】をたしかめにいく』
〇
「ねえイツキ」
「ん?」
【霊樹の里】にある切りかぶの台で、ふたりは話しをしていた。
『イツキ』と呼ばれたアールヴの男、壮年期にあたる見目だが、切りそろえられたグリーンの頭髪とするどい眼差しは、精悍でわかわかしい。
イツキに声をかけたのは、光の妖精ではめずらしい、青い髪をした少女だった。
十代のなかごろか、それよりすこししたといったくらいだろう。ほかのものよりも髪色が暗く濃いのは、かのじょ――ミズウが人間との混血であるがゆえだ。ながい耳と長寿の体質が、ミズウの存在を決定し、この妖精の世界に住むことをゆるしている。
ミズウは言った。
「セレンさまは、どうしてあの人間を里に置いてあげないのかなあ」
「あの人間て?」
「ユノっていう」
「あー」
つまらないことを聞いたとイツキはうめいた。
丸太の腰かけに座ったまま、オノを持ちあげ、立てた円柱形の木に振りおろす。
ぱかん。
いい音をたててマキはまっぷたつに割れた。
「そりゃー、人間を里に滞在させたら、とんでもないことになるからさ」
「とんでもないって?」
ミズウは台から落ちたマキをひろっていく。
と。
「おまえさんはまだ若いからのお」
年老いたへんじがして、ミズウもイツキもそちらを見た。
髪のように白くてながい眉毛に、ごわごわと伸びたアゴひげ。
禿げあがった頭にトンガリぼうしをのせ、たよりなく曲がった腰を、杖でささえて立っている。
「あ、ドーズだ」
「こんばんは」
ホビットの大老、ドーズは、アールヴのふたりにチョコンとおじぎした。
見た目ではイツキよりこのホビットのほうが年寄りだが、実年齢ではいくらか年下である。
だがミズウはちがった。生まれてまだ五〇年ほどしか経っていないのだから。
白い夜空――エルフの世界では『夜』もあかるい――を見上げて、ドーズはミズウに言った。
「ありゃいつごろのことだったか。三〇〇年はむかしだったかいのお」
「五〇〇と四年」
「そうかそうか」
りちぎに訂正するイツキに、ドーズはこともなげにヒゲを撫でた。




