61 復讐や
〇まえの回のあらすじです。
『【キングボア】のまる焼きができあがる』
『ぷぎー!!』
ハルモニアのうでのなかで、だっこしていた仔イノシシがさけんだ。
あわてて金の小竜はスギのうえから地面へと降下する。
戦闘のあったところからはなれた場所でおろすと、仔イノシシは、フローラの無防備な背なかに突進した。
ハルモニアにならって木をよじよじ下りていたユノが、「あっ」と思う間もなく、ちいさなイノシシは、銀髪の少女のヒザうらに激突する。
「ぬがあっ!」
まぬけな声をあげて、フローラはくず折れた。
ハルモニアの背なかから、もう一頭のイノシシがおりる。
そちらもまた、子どもながらにパワーのある動きで、親のかたきである少女のよこっ腹に突っ込んだ。
どずん!
二度も不意を突かれて、フローラはうずくまる。
【リカバリー】の呪文をつぶやいたようで、ようやくスギの木の根もとにおりてきたユノのまえで、少女のからだは淡いひかりにつつまれていた。
『ぷぎー!』
『ぷぎー!!』
二頭のちいさなキングボアは、怒りもあらわに跳びはねる。が、攻撃はさいしょの一撃ずつで、わめきながらも、少女からは距離をあけていっていた。
焼け焦げて、『死体』をとおりこして『食糧』となった親を何度もふりかえりつつ、けっきょくは逃走に踏み切って、林のおくへと消えていく。
「くうっ……けっこーメンタルに来たわ」
「……」
わき腹を押さえつつうめくフローラに、ユノはそばまで来て手を貸した。
フローラは少年の手を取って立ちあがる。
「ねえ」
ユノは、からだはすっかり回復しただろうに、弱気なため息をつく少女に言った。
「どうやって里に持っていくの?」
「えっちらおっちら引きずっていったりはしないわよ」
トングラムはありそうな肉塊を見やるユノに、気を取りなおしてみせてからフローラは、ポーチから青い石を取り出した。
テレポート用の魔石だ。つかえば、最寄りの町まで飛ばしてくれる。
「さきに帰ってるわ。もし、なにか用事があったら、ハルの家をたずねてちょうだい」
「あの大きな樹だね?」
「ええ」
今日のひるに、セレンと会った【霊樹の里】中央にそびえる巨大な樹木。
神話に出てくる世界樹を彷彿とさせるそれに、ハルモニアはもちろん、フローラも住んでいる。
「――って、よくかんがえたら、あんたはわたしに魔石の代金をせしめに来なきゃならないのよね」
両肩をすくめるフローラに、ユノは首を振った。横に。
「お金はいらないよ。その代わり、聞いてほしいことがあるんだ。大事なことだから、リリコとのことがおちついてからはなしたいんだけど」
「……。あんたが『だいじ』って言うんだから、そーとーたいへんなことなんでしょうね」
ふっとちいさく笑って、フローラはついさきほどつくった『キングボアのまる焼き』に片手をあてた。
「わかったわ。あしたのおひる以降なら、いつでもどーぞ」
ユノはうなずいた。
青い石は、フローラが念じるなり、かのじょのてのひらのうえで砕け散った。
ひかりが生まれて、少女たちのすがたを瞬時に掻き消す。琴の弦をつよくはじくような硬い音を最後に、フローラとイノシシをつつんだひかりは、一迅の風となって天へと奔った。
【魔石】のテレポートは、原則的にひとつにつきひとり。アイテムであれば、重量にもよるがつれていくことができる。
しかし『意志あるもの』としての『生物』は、魔力への相互干渉がはたらくため、小ぶりなハルモニアでさえ、同行させることはできない。
「えーと」
いきなり『知りあいの妹』とふたりきりになって、ユノは困惑した。
『ふぎゃー』
ハルモニアはパタパタつばさをうごかして、ユノのまえからどこへともなく移動する。
かのじょの羽ばたいていった方角から、【霊樹の里】へと帰るのだろうとユノは合点した。
「……ボクも帰るか」
なんだかつかれた。
戦ったのは自分ではないのに、ひどい倦怠感が、ユノの全身に落ちていた。
読んでいただき、ありがとうございました。




