6 エンカウント
・前回のあらすじです。
『やまのなかで立ちおうじょうしていた、トカゲのかいぶつ・【サラマンデル】たち。ちかづいてくる人間のけはいを感じて、むかえうちにいく』
〇
――ひさしぶりだなあ――
という感慨しか沸かなかった。
落ち葉のくさって水っぽくなった地面。しかし不快ではない土の感触を踏みしめて、山の斜面をのぼりながら、ユノは荒野にのびる円筒形の構造物をみつめた。
【バーライル】の町を発って、三日目である。山中で洞窟をみつけて野宿をしたり、木にタープをわたして野営をしたりしているうちに、天気はよりいっそうぐずついてきた。
【パペルの塔】のある荒野は、ふしぎなことに、この山を越えると雨がなく、草も木もはえない。死した土地の頭上に、まるで義務のようにかぶさりつづける枯れた空。一歩でも荒れ地に踏みこめば前進のきびしさを思い知る、かわいた強風と、それによって吹きつけてくる砂あらし。
山の高みから荒涼とした大地をながめて、ユノは安全な道をさがし、あるきつづけた。
キン。とかすかな音がする。同時に、「がりっ」と土をけずる足音。
(――金属音?)
気のせいかとも思ったが、刹那、前方の木のかげから飛びあがったシルエットに、ユノは機敏に対応した。
「モンスター!!」
バック・ステップで、初撃の上段斬りをかわす。
かげは、高くジャンプした状態から、体重をのせて、一気に剣を地面にたたきつけた。
怪物のすがた――トカゲをおとなの男ほどにまで肥大させ、鎧かぶとで武装させれば、こうなるだろうか。赤いウロコにおおわれた顔に、ひとつ、ふかい刀傷をはしらせている。戦慣れした顔相の、『トカゲ男』。
ぎょろりと、爬虫類特有のらんらんとした双眸で、ユノをにらみつけながら、そのトカゲ男――【サラマンデル】は、振りおろした剣をひきあげた。
一頭の斬撃をかわしたとき、同時に腰からぬいたブロード・ソードを、ユノは片手でかまえる。ゆだんなく、ユノもまたあいてを牽制していた。が。
刀傷の魔物に警戒を集中させているあいだに――ほかの存在を思慮にいれるまえに――よこあいのしげみから、ひゅん、と風切り音が飛ぶ。
(もう一匹!?)
――わからなかった。脇腹めがけて突き放たれたロング・ソードの切っ先を、ユノはあわてて武器の腹でそらす。
すんでのところで、ふところにしのびこんだ鋼鉄の刃が、あさくユノの腹側部をけずる。
ギャリンッ!!
鎖を仕込んだレザージャケットが、こまかな輪っかを、裂けめから宙に散らす。
「このっ!」
不意打ちを払った姿勢から、むりやり横へのちからのむきをころして、大きく一歩、敵に踏みこむ。
刀傷のない、すこし体格のちいさなサラマンデルだった。こちらも胸と腰を鎧った化けトカゲ。むきだしになったわずかな部分――筋肉の浮いた腹に、ユノは、腰だめにした拳を突きこんだ。
どずんっ!!!
和太鼓を、フルスイングしたバチで打ちつけたような、鈍重な音がする。周囲の木々に、それはびりびりと反響した。