55 愛ゆえに
〇まえの回のあらすじです。
『ユノがフローラの先生のことを聞く』
緋色の森林にしずけさが下りる。
ユノは「今だ」と意気込んでフローラの背なかに声をかけようとした。
「ふぎゃあ」
ハルモニアが鳴く。
肩車をしているフローラが、妹の視線を受けてちかくの茂みを見やった。
ユノは出しかけた声をのみこむ。
茂みのなかから、二頭のちいさな動物があたまをのぞかせた。
フゴフゴ。
かおから突き出た三角の鼻をうごかしている。
(子ブタ?)
とユノは思った。
だが出てきた二頭の仔ブタ(仮)は、体毛が深いむらさき色であり、ところどころに黒い模様がある。
「ぎゃあ~」
ごきげんな笑顔になって、ハルモニアが姉のあたまから仔ブタたちに飛んでいく。
黒曜石のような色味の毛皮の仔ブタたちは、さいしょビックリしたふうに身をすくめた。
が、相手に敵意がないとさとったようで、すぐにフゴフゴと小竜になつく。
(かっ、かわいいなあ~)
ハルモニアとじゃれ合う黒い仔ブタたちに、ユノは目をキラキラさせる。となりではフローラも同じように陥落――される寸前だった。
「うん。めっちゃカワイイわね」
「いいなあ~。カメラがあればよかったのに」
メルクリウスに近代機器がないのを心底悔やみながら、ユノは獣の子どもたちの愛くるしいようすを、穴のあくほどにみつめる。
「その『カメラ』ってのはよくわかんないけど……。冷静になったほうがいいわよ、ユノ」
「なにが?」
どうゆうこと?
とふにゃけた表情のまま振りむくユノに、フローラは横から半眼を投げかえした。ことばをえらぶ。
「この仔たちは【キングボア】の子ども。でもって、子どもがここにいるってことは……」
「親もちかくにいるってこと!?」
地球にいたとき、テレビのニュースでツキノワグマへの注意喚起をみたことがある。
仔グマはいかにもヌイグルミめいていて、観光旅行客などが「かわいいかわいい」と撫でようとしたり写真を撮ろうとしたりすることがあるようだが、それはキケンだからやめてほしいと、地域のハンターなどが呼びかけている。
【キングボア】というのが、果たしてクマと同じ習性を持つかどうかは分からない。
だがユノは、冷や汗をたらすフローラから、それとなく「似ているのだ」と判断した。
――親グマは、人間が仔グマのそばにやってくると、我が子を守るために攻撃的になるという。
そのパワーのつよさたるや、クマパンチをして自動車のフロントガラスを叩き割るいきおいである。
――ぶるるおおお!
ハルモニアとたわむれる仔イノシシたちに、ユノが戦々恐々としはじめた矢先。
耳をつんざく獣の怒号と、風と大地を揺るがす足音が、ふたりの背後に接近した。




