54 ※知らない人についていっちゃいけません
〇まえの回のあらすじです。
『ユノとフローラが、狩りのために【はじまりの庵】をあとにする』
〇
紅色のひかり射す森は、【霊樹の里】の近辺にあった広葉樹とはちがい、裸子植物の樹々が天高くそびえ生い茂る林だった。
「この日差しは魔力による錯覚なのよ。【時間】の区切りがないのは不便だからって、何代もまえのまえの族長が、半日を区別しやすいように波長をいじったんだって」
というフローラの説明に、「ふうん」と気のない返事をするユノ。
「それより、きみの『先生』のこと、聞きたいんだけど」
もっと言うと、ユノはフローラの先生についてではなく、フローラ自身のことを知りたかった。
精霊の巫女として生まれたかのじょが、どういう気持ちで生きてきたのか。
王家の第二王女であるかのじょだが、なんとなし、城に寄りつこうとしない気配があるが、それはなぜなのか。
まだユノとパーティを組んで旅をしていたとき、フローラは【勇者】としてのちから――【選定の剣】を持てあますユノに、こう言ったことがある。
『どんな経緯であろうと、『特別』になった時点でそいつはチカラを振り回さなきゃならないのよ。その重みに耐えかねて、自分が潰れることになってもね』
かのじょの真意について、ユノはなにも分からないでいた。
ただ、フローラはそう在らざるを得なかったのだろうか。という想いがあるだけで。
「わたしの先生はね――」
肩車したハルモニアの肢を、チョコチョコ掻いてはバシバシ頭をたたかれながら、フローラはうしろのユノに話す。
「なんか変わったひとだったわね。すんごい頭もよくって、魔法の技術も高かったのに、昼間っからそのへんフラフラしててさ。仕事って持ってなかったんじゃないかしら」
「えっ。だって、きみ学校に行ってたんでしょ? 法学部にいたって、お姉さんは言ってたじゃないか」
「いるにはいたわよ。でも、ほっとんど授業に顔出してなかったの。先生の家に入りびたりで、どっちかってーとそっちで倫理学とか論理学は学んだのよ」
「……。その先生とは、どうやって知りあったわけ?」
「んー。姉上とケンカして、父王に用意されてたお屋敷を飛びだしてったときにね。もう帰らないつもりで町を歩いてたらさ、夜になっちゃって。とほうにくれてたら声をかけられたわけよ、そのひとに」
「なんて?」
「『ヒマならうちの掃除てつだってくれない? お小遣いあげるから』って」
「絶対ついてったらヤバイひとのセリフじゃないか!」
「人を見る目はあるわよ。昔ももちろん、今もね。第一、そのひと、女のひとだったし」
「でもあぶないよ。よく無事だったね」
「だーかーら、ちゃんとひとは選んでるっつーの」
ユノの心配をよそに、フローラは溜め息をした。
「古代語の文法や幾何、薬のつくりかたや【魔石】のつかいかた……いろいろ教えてくれたなあ。メルクリウス以外にも世界があるってことを知ったのも、あのひとの家でだった」
当時をなつかしむようにフローラのくちもとが微笑する。
「わたしが妹をさがしに旅に出たいって言ったら、冒険に役立つスキルも仕込んでくれたわね。ピッキングとか、偽名つかうこととか」
(よけーなこと教えてくれたよなあ)
だんだん禄でもなくなっていく指導の内容に、ユノは少女のうしろで肩を落とした。
なお、フローラがかつていたという都市は、現在内紛の本拠地となっており、町のある領への関所は閉ざされ、なかから出ることも、外からはいることもできなくなっている。
どこからかそうした話を仕入れてきたらしいフローラは、ゆるく頭を振るった。
「今はどこもかしこも、なんかややっこしいことになってるみたいだけどさ。まーあの先生なら大丈夫よね。殺しても死ななそうなひとだったし」
「そう?」
ユノはこれ以上立ち入ったことを訊かなかった。
セレンには言わなかったことを、フローラに伝えようか。
かれの意識は、自分の予定のほうにかたむていた。
ひたいの環飾りに触れる。【覇王の冠】。
(これがあれば)
魔法による攻撃をことごとく絶つというマジック・アイテム。
(ボクは、セレンさんに勝てるかもしれない)




