53 覇王の冠
〇まえの回のあらすじです。
『ユノが【覇王の冠】を手に入れる』
ユノのもの知りた気な視線を察して、フローラは講釈した。
「【覇王の冠】っつーのはね、魔石をふくむあらゆる【魔法】の攻撃を、ぜんぶ無力化するっていうすぐれものなの」
「ぜんぶってことは……回復も?」
ちちちとフローラが、たずねるユノに人差し指を振る。
「そこが、わたしがその冠を『すぐれもの』という所以なわけ」
「はあ」
「そいつはね、装備者にとって有益な術だけは、ちゃんと効果を受けてくれるのよ」
「ひえ~……」
自分でもわかるくらい呆けたふうにくちを開けて、ただただユノは驚嘆するばかり。
さきほどフローラに着けてもらった、円環状のカブトに触れる。中央に金の玉石を嵌めたひたいの防具は、庵の窓からそそぐ夕刻の紅を照りかえして、熱っぽい朱を帯びていた。
「まえから思ってたけど、きみ、もの知りだよね。見た目によらず」
「見た目どおりよ。あんたねー、こんなに知性に満ちあふれた御尊顔をまえにして、なに言ってくれちゃってんのよ」
ユノの鼻をつまんでぐいぐい引っぱりながら、フローラは両の碧眼をすぼめた。
銀髪のおかっぱ頭の少女のかわいい顔を至近に感じて、ユノは「ふがふが」戸惑う。
「学都にいたときに世話になったひとがいてね」
「どんなひとだったの?」
ふと、外を気にしてフローラは立ちあがった。
片腕に妹のハルモニアをかかえて、ユノのカバンからいくらかの魔石を取りあげる。
「先生のことは、話してもいいんだけどさ。帰ってきてからでいい? いい加減に時間が押してるわ。獲物が見つけやすいうちに、こっちも出かけておきたいのよね」
「あ、そっか」
シュンとユノが頭をさげるのに、フローラはかるく手を振って踵をかえした。
「代金はあとでいいわよね?」
もらった【魔石】をいくつか見せて、うしろにしたユノに了解をとる。
「うん。――いや、ちょっと待って」
ユノは立ちあがった。
窓辺に立てていたエクスカリバーをつかみ、柄に直接ひっかけた布紐を、肩に袈裟懸けにして背負う。
エクスカリバーに鞘はないのだ。もう、この世には。
「ボクも行っていい? なんなら、手伝うよ」
「来てもいいけど、手伝うのはダメよ」
「どうして」
「リリコが『ほかの人を巻き込むな』って言ったのは、そういうことだから」
にべもなく断られたものの、「ついて来るのはかまわない」ということで、ユノはフローラと共に森へ出ることにした。