50 ついで
〇まえの回のあらすじです。
『ユノが目覚めると、家に【フローラ】と【ハルモニア】がいた』
「フローラ、いつからいたの?」
「十分くらいまえかな」
『くるり』とイスのうえでからだの向きをかえて、フローラは正当なかたちにすわりなおした。つまり、背もたれをまえにするのをやめた。
テーブルの対面には金の小竜【ハルモニア】がいて、果実水をストローで「チュー」と飲んでいる。
コップもジュースも、ふたりが持ってきたものだった。
土竃のかたわらにカンタンな台があるのだが、そこにお皿や杯、フォークやスプーンなどの食器が、敷いたぬののうえに置かれている。
くだものや野菜、たまごのはいったカゴもあった。
「きみが持ってきてくれたの?」
「そーよ。感謝なさい」
(これさえなきゃね……)
ユノは半眼になって、ひきつった笑みをかえす。
「ま、ついでの用事だったからいいわよ。ここって通りがかりだったから、うちであまってるぶんの食糧を持ってきてあげただけ」
「なんだっていいよ。たすかる」
【里】の【妖精】たちとは、どう考えてもコミュニケーションが取れそうもないユノだった。
旅用の『携帯食』もほぼ底を尽きていたいま、食べものをもらえるというのはありがたい。
「ところでフローラ、ハルモニアも……。もうセレンさんのてつだいは終わったの?」
「あらかたね」
「じゃあ、なんの『ついで』なのさ」
「あんた、つまんないこと気にすんのね」
心底あきれたかおつきになって、フローラは髪留めでひろくしたおでこに自身の指を押しあてた。かつてユノとパンドラにもらった髪かざりだ。
「『狩り』に行くのよ。リリコが言ってたでしょ。『【キングボア】のまる焼きが食べたーい』って」
(そんな言いかただったかなあ)
両手を合わせて『おねだり』のポーズ――リリコのマネらしい――をするフローラに、ユノはこころのなかだけで苦笑いをした。