36 瞬殺やったで
〇まえの回のあらすじです。
『セレンが、かえってきた三人を出むかえる』
〇
奥の間から出てきたみどり色の女はフローラの腕のなかにあるものに目を留めた。
金色の子どもの竜である。かのじょ、ハルモニアは気まずげながらも「ぎゃあ」とそだての親にあいさつをした。
みどりの長髪にながい耳の【妖精】の女性――セレンは、あいての挙措ひとつであらかたをさとったらしく、ひとつ息をつく。フローラに訊いたのはいちおうの確認のためだ。
「で。どうだったの?」
「ふふん。まあ『これ』を見てちょーだい」
フローラはつとめてかるく振るまった。パンドラに竜をよこし、いれかえるようにかのじょから植木鉢を受け取る。
赤茶色の鉢には、ふた葉の芽があった。
セレンは一瞥するなり、持っていた杖でフローラの銀色のあたまをたたく。
ガツンッ!
「いたあっ!!」
「こんな小細工をするひまがあったのなら、気の利いた言いわけのひとつでも考えてほしいものね」
セレンは頭痛でもするのか。しろいひたいに指を押しあててうめく。
フローラはおだやかではない。
「ちがうもんッ。へたな言いわけをするよりかはいさぎよくごまかしたほうがいいって思っただけだもの! みてよこの鉢のみごとなソックリかげん。それにせっせと土をつめてさ。ちょーどハルが植えたばかりのお花をちょいと拝借してっ。このなみだぐましい努力はみとめてほしいわね!」
「たしかに。泣けてくるわね。おうじょうぎわが悪すぎて」
セレンはひとまず鉢は受けとった。
なかにやどっている【花】の幼体には、ほのかだが【精霊】のちからを感じる。そのけはいは、ただ精霊の御魂とかかわりのつよい【フローラ】のそばにあったから。というわけではないだろう。
セレンはハルモニアに視線をうつす。
「……。なぜなのですか。ハルモニアさま」
【竜】はこたえなかった。
ただおこられないように、必死に顔をそらすばかりだった。